今の時期の歌に「母さんの歌」がある。


今の時期の歌に「母さんの歌」がある。「母さんは夜なべをして手袋あんでくれた」(中公文庫『日本の詩歌』)で始まる歌だ。この一番の終わりは「故郷の便りはとどく 囲炉裏のにおいがした」。便りからほのかに漂う囲炉裏の匂い。その嗅覚の記憶が故郷の家を思い起こさせる。▼哀切な詞だが、今の子どもはどんな嗅覚の記憶を持っているだろうかと思う。先の本では、この歌を「昭和36年」と紹介しているが、「昭和30年代までの日本の家には、匂いがあふれていた」(竹内一郎著『人は見た目が九割』)。▼汲み取り式の便所があり、家畜もいた。おくどさんもあった。冷蔵庫がなく野菜などの食べ物の匂いがあり、何より木造の匂いがあった。しかし、これらの生活の匂いは家庭から消えていった。▼篠山を「童謡と唱歌のまち」にしようという動きが進んでいる。童謡には昔懐かしい光景があり、「母さんの歌」のように嗅覚の記憶を呼び起こす歌詞もあるが、歌詞だけでなく、その背後にある生活の匂いも子どもに伝えたい。▼「山茶花山茶花咲いた道 焚き火だ焚き火だ 落ち葉焚き」。我が家ではこの時期、落ち葉を集めて焚き火をし、イモを焼く。焚き火や、イモが焼きあがる匂いを愚息に伝えたいからだ。長じたときに我が家の匂いの記憶が芳香剤では寂しかろう。(Y)