過日亡くなった関敬六さんが、俳優としての存在感を示した映画「男はつらいよ」にこんなセリフがある。


過日亡くなった関敬六さんが、俳優としての存在感を示した映画「男はつらいよ」にこんなセリフがある。寅さんと一緒に、おいしそうに握り飯を食べている『ポン州』こと、関さんが思わず「うめえなあ」とつぶやくと、寅さんが「生きてるってことはいいことよ。なぁ、ポン州」と返す。幸せとは何かを端的に表現した絶妙のやりとりだ。▼ぜいを尽くしたご馳走でなくていい。塩味のほどよくきいた握り飯があればいい。手で握った温もりが感じられる握り飯をほおばるだけで幸せな気分にひたれる。「男はつらいよ」には、つつましくも心豊かな幸せが全編を貫いていた。▼しかし、その幸せは、私たち現代人が失ってしまったものである。握り飯には目もくれず、どんなご馳走にも飽き足りない。さらに上のご馳走を渇望し、満足することを知らない。とことんまで幸せを求める欲深な性格になってしまった。▼江戸末期の歌人、橘曙覧(あけみ)に、「楽しみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見る時」など、「楽しみは」で始まる五十二首の歌がある。たまに魚を煮て、子どもらが「おいしい」と喜ぶ時。だれに邪魔されることなく、本を読む時。そんなささいなことも「楽しい」とうたう。▼こんな境地になれば、握り飯も至上のご馳走だろう。欲深な自分を省みなければ。(Y)