「信長の棺」という昨年のベストセラー小説(加藤廣著、日本経済新聞社刊)を読んだ。

2006.12.27
丹波春秋

「信長の棺」という昨年のベストセラー小説(加藤廣著、日本経済新聞社刊)を読んだ。信長から秀吉に天下が移るまでのことを描いているが、従来あまたある話とはいささか異なる。▼題名が示すように、本能寺で殺された信長の遺骸がなぜ見つからなかったかという疑問が大きなテーマで、「寺には、今田立杭を拠点とする土木技術者集団『丹波者』に秀吉が作らせた秘密の抜け穴があった」という設定。▼「そして秀吉が…」と続けるとミステリーじみてくるのでそれ以上は控えるが、何はさておき、秀吉その人の出自まで「丹波と浅からぬ縁があった」と言われると、聞き過ごすわけにはいかない。▼物語の主人公は信長の正伝と言われる「信長公記」の著者、太田牛一なる実在の人。改革者としての信長を尊敬する一方、起伏の激しい人格に複雑な気持ちを抱いた彼は、「公記」に書けなかった真実を究めようとする。その部分が作家加藤氏の信長像であり、光秀や秀吉像であるわけだが、それによると秀吉は巷間伝わる以上の謀略家だ。とりわけ、織田軍が奇跡的な勝利をおさめた桶狭間の戦いの裏には、後世、秀吉自身口を閉ざしたほどのことがあったのではないか、と。▼「丹波者」の存在については郷土史家の検証を待つとして、新作「秀吉の枷」にてもう少しその辺のことを知りたい。(E)

関連記事