女優の沢村貞子さんの子ども時代に心洗われる逸話がある。

2007.01.21
丹波春秋

 女優の沢村貞子さんの子ども時代に心洗われる逸話がある。今ならばオール5の通信簿を学校から持ち帰り、母親に得意げに話した。しかし、母親はつれない返事。ついつい勉強の不得意な近所の友達の名前をあげ、いかに自分がよくできるかを訴えた。すると母親は怒気を含んだ声で「みっともない」とたしなめた。▼名前をあげた友達は家の手伝いがしっかりできる。人間、勉強さえできればいいものではない。少しぐらい先生にほめられたぐらいで、いい気になるな、というのが母親の言い分だった。▼「みっともない」。これは言動を律する倫理であり、鮮やかな美意識だが、「みっともない」と子どもを戒める親は今、どれほどいるか。「お天道様」という言葉も聞かなくなった。陰でこそこそ悪いことをしても、お天道様は見ている。一人きりでも身を慎まなければいけない。お天道様も美意識の一つだった。▼司馬遼太郎さんは、「戦国から幕末までの日本人は、どう行動すれば美しいかばかりを考えていた」と書いている。現代のようにどう行動すれば成功するか、もうかるかではなかった。▼テレビに出てくる耐震強度偽造問題の当事者たちを見ていると、かつての日本人が持っていた美意識がこっぱみじんに壊れたように思えてくる。みっともない日本人が増えてしまった。(Y)

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