カバヤ文庫


 昭和27~9年頃、カバヤキャラメルというのがあって、箱に入っている点数カード(普通は1~10点)が50点たまると、特製の世界名作集の中から好きな本が送ってもらえた。小学生だった春秋子は夢中になって集め、1枚で50点の「カバの王様」が当たった時は天にも昇る気分だった。▼同年齢の坪内稔典氏が、詳しく調べたノンフィクションの著書「カバヤ文庫の時代」(沖積舎刊)を送って下さ

った。四国の辺地で育った氏にはこの文庫の「レ・ミゼラブル」が、自分のものになった最初の本らしい本だった。▼文庫はキャラメルの販売促進のために企画されたものにほかならないが、編集責任者のロマンチストの社員と、思うままに働かせた社長、その意気に応じたスタッフ、またそれを圧倒的に支持した全国の少年少女らが、空前のブームを巻き起こした。▼159点、発行総部数2500万にのぼったといわれる文庫にはありとあらゆる名作が網羅され、五味康祐ら無名時代の作家や大学院生、高校教師らがアルバイトでリライト執筆。「宝島」では岩波少年文庫よりはるかに活き活きとした文体が例示されている。▼随分たくさん手に入れたはずの春秋子は、肝心の中身は題名すらろくに覚えていないが、この文庫がまぎれもなく俳人稔典氏を育んだことを知り、脱帽する。(E)