風土


 NHKの朝ドラにも出演している篠山市出身の俳優、南条好輝さんの「ひとり語り」を聞いた。語ったのは、近松門左衛門の「冥途の飛脚」。南条さんは、近松が江戸時代の町民社会を描いた世話物24作品を一人で語る公演を各地で行っており、篠山でも3年前から毎年1回、上演している。会場は、篠山城跡近くのカフェ。▼カフェのガラス戸越しに城跡の堀や石垣が見える。しかも、このカフェは旧武家屋敷を改装したもの。江戸期の風情が残る空間で、近松の世界が浮き上がる。カフェ内には、今と昔が重なり合わさった空気が満ちていた。それは城下町篠山ならではの風土でもある。▼最近読んだ思想家の内田樹(たつる)氏の随筆の一節を思う。「国民的統合を情緒的に下支えしているのは、『兎追いしかの山』や『夕焼け小焼けの赤とんぼ』が歌う幻想的な風土である」。▼情感を誘う風土を、人々が心のふるさととして共有し合うとき、人々は一つの絆で結ばれる。これは国家レベルにとどまらず、地域レベルでもあてはまる。地域に住む人々が「わが町の原点」として認め合っている風土や文化があることで、その地域の人々は結ばれる。愛郷心も生み出される。▼今と昔が重なり合う城下町の風土。それは、まぎれもなく篠山の原点であり、篠山人の絆であろう。(Y)