ふるさとの味


 亡くなった後も、家族からずっと慕われる母親とはどんなタイプか。才色兼備の母親か、それとも社会的地位の高い母親、優しい性格の持ち主か。思想家の吉本隆明氏は、いずれも違うと退ける。では、どんな母親か。▼「自分の創造した料理の味に、家族のメンバーを馴致させることができた」、そんな母親が家族から慕われるという。いささか極論めいている気がしないでもないが、「おふくろの味」という言葉があるように、母親の料理は特異な意味をもっているのだろう。胃袋をつかんだ母親は家族から仰がれる。▼最近、おもしろい言葉に出合った。『亡命ロシア料理』という本にある言葉らしく、「人間を故郷と結びつける糸」の正体を解き明かしたものだ。「故郷から伸びているいちばん丈夫な糸は魂につながっている。つまり、胃につながっている」。▼石川啄木が「ふるさとの訛なつかし」とうたったように、言葉を含めた風土も、人を故郷と結びつける糸になる。文化や歴史もそうだ。しかし、なかでも食は別格で、「これは糸などというものではなく、綱であり、頑丈なロープである」という。▼故郷に対する愛着を育て、故郷を離れても望郷の念を抱かせる根源は「ふるさとの味」ということか。さて、我が丹波地方にはどのような「ふるさとの味」があるか。(Y)