サピエンス全史

2017.11.16
丹波春秋

 「アメリカ大陸への移住が無血だったとはとても言い難い。その後には犠牲者が累々と横たわっていた」。

 「サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福」(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳)からこの1節を抜き出したら、誰しも500年前頃、ヨーロッパから渡ってインカ、アステカ文明を崩壊してしまった者たちを思い浮かべるだろう。

 それについてももう少し後で記述があるが、ここでの犠牲者は違う。はるか古く1万2000年前、「マンモスやクマほどもあるネズミ、身長6メートルのオオナマケモノなど今日では全く見られない様々な大型動物種」を、ホモ・サピエンス、つまり人類がシベリアからアラスカに渡って南下し、瞬く間に席巻した時の話だ。

 彼らはその少し前頃までに、ネアンデルタール人ら、他にいくつかいた人類種をも地球上から絶滅させていた。その子孫たる我々は何故地上の王者になり得たのか。

 ここからは春秋子の独断だが、脳の発達と共に「自分ファースト」の意識をも発達させたからではないか。文明は時代を経て洗練され、その意識も修正されてきてはいるが、産業や科学や芸術がかくも進展しても人類の幸福感は増大したかどうか。我々の行く末をも含め、温かくかつクールにみつめる同書は、秋の夜長を忘れさせてくれる。(E)

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