生の本能

2018.05.19
丹波春秋未―コラム

1900年、ロンドンの新聞に一風変わった求人広告が載った。イギリスの南極探検家が隊員を募集した広告だ。「至難の旅。わずかな報酬。極寒。暗黒の長い月日。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る」。広告の反響はものすごかった。探検家は「まるでイギリス中の男たちが、私の仲間になることを決意したよう」と語ったそうだ。

命がけの困難な仕事なのに、なぜ人をひきつけたのか。周囲からの賞賛も理由に違いないが、それだけではなかろう。アナーキストの大杉栄の主張する「生の本能」が、人を突き動かしたのではないか。

大杉は、人間には自己の崇高さを感じなければならぬ、という本能が生来備わっているという。この本能に促され、人はときにあえて困難なことに挑む。決死の戦いに身を投げ出すという。

そんな本能が発露する場の一つがスポーツだ。だからこそアスリートたちは自らを極限に追い込むことをいとわないのだろう。自己の崇高さを確かめるにはハードルが高いほどいい。

スポーツの中でも、トライアスロンはまさに生の本能が躍動する過酷な種目と言える。そんなトライアスロン大会が青垣で開催されてきたが、今月27日の大会を最後に幕を閉じるという。残念だ。いつの日か復活することを願う。(Y)

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