彼岸花


 「土葬墓のあはひを埋めて死人花(しびとばな)血しぶく秋(とき)を里は祭りす」(富小路禎子)。鮮血色をした「死人花」が墓地に咲き乱れている一方で、里は秋祭りでにぎわっている。墓地にあやしく咲く死人花と、祭りで浮かれる里との対比が鋭い。死人花とは、彼岸花の異名。墓地に目立つ花であることから、こう呼ばれた。

 彼岸花は曼珠沙華ともいう。宗教評論家のひろさちや氏によると、曼珠沙華とはもともと仏典に出てくる天界の花だという。天界の花だから、秋の彼岸の頃に咲く彼岸花の別名としてふさわしいと考えられたのだろうという。

 天界の花が俗界に降りると、死人花などと不吉な名前をたまわる。何とも面白い話だが、彼岸花には「数珠花」との異名もある。これは、彼岸花の花茎を短く折り数珠の形にして首に掛けた子どもたちの遊びに由来するという。

 このように彼岸花にはたくさんの異名がある。国語学者の金田一春彦氏によると、方言の多い植物の筆頭は、529種もあるイタドリで、それに次ぐのが彼岸花。イタドリも彼岸花も子どもの遊びの対象になったから、多彩な方言が生み出されたとする。

 ときに忌み嫌われる彼岸花だが、花自体は華麗で美しい。先入観にとらわれず、彼岸花の美しさに見入り、親しんだ子どもの真っ白な感性を思う。(Y)