暑中葉書

2018.09.13
丹波春秋

 先月、滋賀県のJ子さんから届いた暑中葉書。立山局の消印で、「あの夏から30年。記念にアルペンルートに来ています」とあった。東京のOLだったJ子さんと知り合ったのは、富山の大学の先生に取材に行くため上野駅から乗り込んだ夜行列車内。2人ずつ向き合う席で、彼女は大きなリュックを網棚に乗せた。

 長旅の道連れで聴いた彼女の話は、劇的すぎた。ちょうど1年前、立山の渓谷で溶けかけた雪渓と地面の隙間に滑り落ちてしまった。女友達が真っ青になっているところへ、偶然通りかかった青年が迅速機敏に救い上げてくれた。後でわかったが、何と京都の消防のレスキュー隊員。

 命の恩人に数カ月後、自分のピアノ・リサイタルの招待状を送ったら、花束を抱えて新幹線で駆けつけてくれた。そして「1周年の明朝、富山駅で落ち合って、立山の同じ場所まで行きます」。彼がプロポーズするとの予感は的中し、また1年後、「いいよこの秋に挙式します」との便り。

 その頃、N紙に書いた拙稿コラムが結婚披露宴で読み上げられたと聞いたが、大阪勤務時代に2人が挨拶に来てくれた時、筆者は外出中で、その後も会わずじまい。年賀状と暑中のやりとりだけが続いている。

 もう30年かと振り返りつつ、神様は時に味なことをなさると、つくづく思う。(E)

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