経国の大業

2018.09.09
丹波春秋未―コラム

 本日号の「ひと」欄に「文章は経国の大業にして不朽の盛事なり」という言葉が出ている。意味は、広辞苑によると「文章は治国の大業で永久に伝えられる事業である。すぐれた文章は不滅で永久に伝えられるものだ」とある。

 郷土史家の松井拳堂はこの言葉を繰り返し引いていたらしい。そんな拳堂だから、金銭に執着することなく著述に打ち込み、今に残る『丹波人物志』『丹波史年表』などの多数の書を著したのだろう。

 芦田均を思う。芦田は家にいる時、本を読むか、原稿を書くかのどちらかだった。歴代の総理大臣で最も多くの著作を残したのは芦田だったとも聞く。

 芦田は履歴書などに自分の肩書を書く時、「文筆業」と書いた。政治家を職業として名乗るのを嫌ったためらしいが、「文章は経国の大業」という言葉を芦田が知らないはずがない。経国を司る政治家の使命として著述に励み、その自負が文筆業と言わしめたのだと思う。

 社会思想家の佐伯啓思氏は「政治家とは本来、人間そのものに関わるはずだった。政治家は本当は文学者でもあるべきだった」と書いている。人生の甘いも酸いも知る人物こそ政治家にふさわしく、そのためには文学に精通しているべきだという。現代、芦田のように文学者としての資質を持つ政治家はどれほどいるか。(Y)

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