内田康夫


 丹波が舞台のミステリー小説「遺譜」が〝遺作〟となった作家、内田康夫氏が亡くなって1年。昨年4月に軽井沢の浅見光彦記念館へ献花に行った際は、全国から多くのファンが訪れていた。

 氏は「遺譜」の後、熊野古道と、藤原鎌足の墓とされる阿武山古墳(高槻市)を仕掛けにした「孤道」を毎日新聞に連載中、未完成のまま病魔により中断。公募した完結編が「金色の眠り」という副題で先月刊行された。

 ほとんど無名だった女性作家、和久井清水に引き継がれた同書は、100余りの応募作から選ばれただけあって、内田氏がねらったであろう、歴史と地域の土着性がダイナミックにからみ合った物語によく仕上がると共に、浅見ワールドにきちんと収まっている。

 内田夫人の随筆家、早坂真紀さんが文藝春秋4月号に寄せたエッセイで、「脳梗塞の治療を受けながら病室で『孤道』の執筆を続けたが、500枚書き進んだ時には左半身の不自由で気力を失っていた」と書いている。

 不安と恐怖を訴える夫に2人で短歌作りを提案。額をくっつけ肩を寄せ合いながら1年で160首の歌が出来た。「歌を詠みながら過ごしたこの時間が、50年余りの中で一番夫婦らしい時間だったかも」。そして復帰作の構想を話しながら、桜の開花を待ちながら夫は穏やかに逝った。(E)