家庭訪問”岐路”に 授業増で時間確保や教師の働き方改革で 「やめる」「希望制」も


児童の家庭を訪問する担任教諭=兵庫県丹波市内で

 小中学校の教師が児童生徒の家に出向いて懇談する「家庭訪問」を見直す動きが広がりつつある。兵庫県丹波市、篠山市の全小、中学校計48校に取材した結果、丹波市内の2校が今年度から「やめる」と回答。また、一斉訪問をやめ、家庭からの「希望制」に切り替える、あるいは切り替えた学校は両市であった。背景にあるのは来年度の学習指導要領改訂に伴って増えた授業時間数を確保することや、教職員の「働き方改革」の一環があるよう。ほかにも次年度以降、実施を検討する学校もある一方、「今後も必要」とする学校もある。長年、”当たり前”のように続いてきた家庭訪問が岐路に立っている。

 丹波市内の22小学校と7中学校のうち、一斉家庭訪問を「やめる」のは、1小学校と1中学校。ほかに全学年で「希望制」にしたのは2小学校。1年生は実施、そのほかの学年で希望制にしたのは1小学校、2中学校。1中学校は1年のみ実施し、2、3年は行わないことにした。見直しを行った学校の中には、家庭訪問の代わりに、早い時期に希望懇談日を設けた学校もある。

 昨年度まではほとんどの学校が、持ち上がりで同じ教師が担任を務める場合を除き、全校児童・生徒を対象に家庭訪問を行っていた。

 一方、篠山市の14小学校、5中学校はすべて家庭訪問を実施する。ただ、「今後の検討課題」とした学校もあった。

 家庭訪問は、実施するかしないかも含め、各校の裁量。見直した学校では、学習指導要領改訂に伴って増えている授業時間数の確保や業務の見直しを主な目的にした。

 今年はゴールデンウィークの10連休があり、授業時間が少ないことも一因になっている。

 

見直す校長「必要性が減った」

 そもそも家庭訪問は、▽担任と保護者の顔合わせ▽自宅の場所の確認▽通学路の確認▽家庭の状況を把握する―などを目的に実施されてきた。

 そんな中、家庭訪問を見直した丹波市の校長は、「時代が変わり、家庭訪問に求められるものが減ってきた」と話す。

 「今はインターネットの地図で自宅がわかるようになった。また、緊急時には保護者の携帯電話に連絡して迎えに来てもらうのが一般的」

 また、家庭訪問を行うには、事前に保護者との時間調整が必要で、場合によっては教師が下見をすることも。人数が多いクラスを受け持つと、1日で10数軒を回ることになり、”分刻み”のスケジュールに追われながらこなすことになる。

 また、労力がかかる一方、各家庭では短い滞在時間でじっくり話を聞くことができないなどの課題があるという。

 さらに、「わずかな時間のために、保護者に仕事を休んでもらうことになり、負担をかける」と保護者への配慮も理由に挙げた学校もあった。

 別の校長からは「教員の業務を見直して、子どもたちと向き合う時間を確保するのが第一の狙い」「あったものをやめるとなると、さまざまな摩擦も予想される。悩みながらの選択だった」などの声もあった。

 

家庭訪問を見直した学校から保護者に出された通知

残す校長「親と1対1で会える機会」

 一方、「必要」とする篠山市のある校長は、「親と1対1で会える機会。授業時数の確保は確かに厳しいが、家庭訪問をなくすほうがデメリットが大きい」と話す。

 丹波市の別の校長からも、「どんな環境で過ごしているか、その場に行って感じてくることが大事」「通学路・通学距離を頭に入れることができる」「病気のことなど、調査票には書きにくいことがある」などの意見があった。また、「授業時数の確保は、保護者や地域にかかわる部分ではなく、校内の行事の見直しから手を付けるべき」という意見もあった。

 ただ、今後の検討課題としている校長は、「『自宅を見に行く』ことはプライベートの領域に踏み込むことになる」「家に来てほしくない保護者や児童もいる。保護者と懇談する場所は学校でもいい」などの声があった。

 

「希望制」導入で「希望」半数に

 折衷案の一つとして「希望制」を導入した学校では、保護者の反応はどうだったか。

 全校生の保護者に希望を取った2つの小学校では、希望者はどちらも約半数だった。

 1小学校は、全校生290人のうち、131人(約45%)が希望。2―6年では約3―5割が希望しており、学年が上がるにつれて希望者が減る傾向がみられる一方、1年生の家庭では6割以上が希望した。もう一つの小学校は、全校生73人中36人(約49%)が希望。1年生は全員、2年生以上は1―6割とさまざまだった。

 篠山市のある小学校は昨年度から、教師が事前に家庭へ出向き、ポストに家庭訪問の希望を取るチラシを入れるというスタイルを導入している。

 希望者は半数ほどになり、同校は、「自宅も確認でき、教師も家庭も負担も減らすことができている。今後もこの方法でやっていく」とした。

 

保護者の意見さまざま

 家庭訪問を受ける側の保護者の意見はどうなのか。

 小学4年生の子を持つ母親(35)は否定的。「10分ほどの訪問のために仕事を休まないといけない。話す内容も他愛のないこと。先生も大変だと思うのでやめたほうがお互い良いのではと思う」

 一方、1年生と3年生の子を持つ母親(40)は、「担任の先生に1対1で伝えたいことがあるし、生の声も聞きたい。特に1年生は家庭訪問がないというのは考えられない」と必要だと感じていた。

 ベネッセ教育情報サイトが13年に2335人から回答を得たアンケートでは、「家庭訪問をしてほしいか」という問いに否定的な回答が70・6%を占めた。

 理由は、「学校での面談と変わらない」「掃除などの準備が大変」が多かった。

 

専門家「家庭訪問見直しもありうる」

 学校経営が専門の川上泰彦・兵庫教育大学大学院准教授の話
 学校現場はこれまで、長時間働くのがいいことだとする空気ができあがり過ぎていた。働き方改革では、決まった時間の中で効率的にまとめていくやり方が求められており、今までのやり方で手ごたえを感じている先生ほど、葛藤を感じることが出てくる。家庭訪問は意義がないことではないが、見直すことはありうる選択肢だと思う。