長崎の痕


 写真集「長崎の痕」(藤原書店)を出した大石芳野さんが、記念の巡回写真展を開いている(大阪会場は終了)。被写体の多くは被爆体験者で、1930年代生まれの人が中心。

 「それでも、ほほえみを湛えて、生きる」。大石さんのどの写真集も、登場するのは戦争や災害に翻弄され、辛酸を味わった人達だが、皆共通して良い顔をしている。苦しみを乗り越えて来た者にしか表せない、凛とした、神々しささえ感じさせる。

 今回とりわけ筆者を捉えたのは、1929年生まれの川口和男さん。静かなたたずまいの顔の、その眼にこちらが襟を正さざるを得ないほど射すくめられる。

 学徒動員で港外の島の造船所にいた。閃光の後、きのこ雲が上がり、紙屑や灰が降ってきたが怪我はなかった。定期便で戻った自宅は破壊されていたが、被爆した家族は無事だった。市役所を定年退職後、当時の記憶を基に絵を描き始めた。うち1枚は、爆心地で寄り添うように折り重なっている家族らしい死体。

 16歳の時。「力漲る手で国の思うままに働き、勝利の発表を信じてメモした」手帳には、「特別攻撃隊をはじめとする強力な日本の空中艦隊が、沖縄島の米太平洋艦隊に対し18時間に亘り執拗な攻撃を加え、11隻に損害を与えた」と、何故かビワの実の写生と共に書いてある。(E)