日本酒

2019.09.29
丹波春秋未―コラム

 太宰治に『桜桃(おうとう)』という小説がある。主人公は、極端な小心者という小説家。自分の思うことを主張できないもどかしさからヤケ酒に救いを求めた。そんなわが身を顧み、「いつでも、自分の思っていることをハッキリ主張できる人は、ヤケ酒なんか飲まない」と考え、「女に酒飲みの少ないのは、この理由からである」とした。

 『桜桃』の発表から71年。今どきの女性は少々事情が違うようだ。今年春、「丹波の酒を楽しむ会」に顔を出した。丹波地域にある酒蔵の酒を楽しむ集いで、定員を上回る約60人の参加があった。いずれも日本酒を愛好する女性だった。

 人間は未開の昔から酒を飲んできた。神々に酒を捧げ、夫婦となり友となる印として酒をくみ交わした。思想家の内田樹氏が言うように、酒をくみ交わすことは「共同体を立ち上げる儀礼」であり、文化だった。

 2日後の10月1日は「日本酒の日」。丹波の蔵元から「ビールはのどを潤すが、日本酒は心を潤す」と聞いた時は、なるほどと感心したものだが、心を乱すほどの過度の飲酒はいただけない。

 「花は半開を看、酒は微酔に飲む」という。「花は半開、酒はほろ酔い。そこに最高の趣がある」という意味だ。文化である酒を楽しむのはいいが、ほろ酔いでとどめること。これは男も女も関係がない。(Y)

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