上田三四二

2011.10.29
丹波春秋

 柏原八幡神社の鳥居近くに、歌人で小説家の上田三四二の歌碑が立っている。旧制柏原中学校(柏原高校)時代の同級生たちが18年前に建てたものだ。「蝉声のしげき人なき社頭には受験少年のわがまぼろしあゆむ」とある。この歌の通り、上田は在学時代、人けのない八幡神社で英単語を復習したり、古文の評釈を読んだりと勉強にいそしんだようだ。▼上田が、自身の受験時代を題材に書いた作品『補助線』(平凡社『深んど』所収)を最近読んだ。そのなかに八幡神社での思い出も書いてあった。▼柏原高校同窓会の京滋支部総会で出会った高齢の女性の言葉が、この本を手に取ったきっかけだった。「私の父が登場しているんです」。女性の父親は、英語教諭の荻田庄五郎さん。『補助線』には、萩島教諭の名で出ていた。▼しっかりした教育理念を持ち、英語の教え方も正確で力があり、悪く言う生徒はいなかったとある。「生徒は教師の人間を見抜いた上で軽蔑したり敬愛したりしていた」ともある。▼「生徒は教師の人間を見抜く」。その通りだと思う。教師の発する言葉はもとより、立ち振る舞い、言葉遣い、表情、服装、周囲に漂う空気など、さまざまな要素から生徒は教師の人間性を鋭く感知するものだ。世の先生方、どうか人間的な魅力を深められますように。(Y)

 

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