挑戦

2011.12.03
丹波春秋

 本紙5面にあるように、柏原出身のピアニスト、多川響子さんがベートーヴェンのピアノソナタ全曲演奏に2年前から挑戦している。近く開く9回目のリサイタルで、全曲の演奏を終える。▼後ろ盾があるわけでなく、自主公演なのだそうだ。企画・運営すべて自分でこなす。それで年に3回のペースで、1回平均300人ほどの聴衆を集めるリサイタルを開催しているのだから、見上げたものだ。▼ベートーヴェンは、聴覚を失うという音楽家にとって最大の試練に直面しながらも、乗り越えた人物であることは有名だ。遺書を記し、自殺を考えた時期もあったが、それから14年後の日記にはこう書いた。▼「運命よ!思いのままに力を振るえ」と。人間は、運命にさからえず、従うより仕方のない存在である。しかし、運命に忍従し、極度のみじめさを強いられても、何ものかが得られると記した後で、「すぐれた人間の大きな特徴は、不幸や苦しい出来事に対して不屈であることだ」―。東日本大震災をはじめとした苦難があった今年、この言葉が胸にしみる。▼多川さんは将来また全曲演奏に挑戦したいという。現在、34歳と若い多川さん。ベートーヴェンとまではいかなくても、人生遍歴を経て再び挑戦するときは、今回とはまた違う輝きを放つことだろう。(Y)

 

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