アナウンサー

2012.04.12
丹波春秋

 「バッターボックスの安藤君の父、源太さんはカツオ漁船で一家を支えておりましたが、昨年転覆事故に遭いまして、享年47歳で他界しました。夢はたくましい船長になって父をしのぐ漁獲高を上げることという安藤君。せがれよ、がんばれ。大空から亡き父上も厚い声援を送っていることでしょう」。▼「安藤君の得意な科目は地理だそうで、今は勉強と野球にひたすら精進するのが親孝行―とのこと。しかしながら安藤君はつい先ほどセカンドゴロでダブルプレーとなり、初回の攻撃はツーアウト。塁上にランナーはいなくなり、夏の浜風が砂をまきあげるばかりでございます」。▼高校野球のラジオ実況中継で、ゲームの進行そっちのけでこんな放送が流れたら、皆仰天することだろう。ところが昭和30年頃、鹿児島の県予選で実際にあったという。声の主は中西龍りょう。

「ああ、あの『にっぽんのメロディー』の…」と思い出す年配読者は少なくなかろう。▼角川の文庫本になった、中西のNHK後輩、三田完による伝記小説には「最初の赴任地、熊本へ新橋芸者を内縁の妻として伴い着流しで現れた」、「旭川時代に遊郭で寝坊し、全国生放送の当番に遅刻」等々の実に破天荒な人物像が描かれている。NHKを先月末退職した村上信夫・前アナウンサーは、彼に魅かれて入局したとか。(E)

 

関連記事