人としての心得

2012.05.12
丹波春秋

 ある日の午後、JR福知山線でのこと。電車に30数名のお年寄りが乗り込んだ。2両編成の電車。すでに高校生が多く乗車していた。お年寄りの多くが席に座れず、立っていたが、高校生は誰一人として席を譲らない。しかも、大きなかばんを足もとに置いている。▼車掌が「通路に荷物を置かれると通行の邪魔になりますので、荷物は網棚に載せてください」と車内放送をしたが、何の変化も起きなかった。お年寄りが座れたのは、高校生が下車してからだった。▼以上の話は、先ごろ本社に寄せられた投書にあったもの。投書の主は、お年寄りのうちの一人で、「親が悪いのか、学校が良くないのか。いや、本人たちが一番いけない」と書いていた。▼席を譲らない高校生は、仲間たちがいる手前、良い子ぶるのを嫌ったのかもしれないが、決してほめられたことではない。お年寄りに席を譲るのは、当然のマナーだ。作家の中野孝次氏の指摘がおもしろい。「作法を知らぬ子は人間社会に迷い込んだ猿も同然だ」(『現代人の作法』)。この高校生たちは猿だったのか、と思う。▼投書が届いた数日後、福知山線に乗った。車内で、母親と幼児の2人連れに席を譲る男子高校生の姿を目撃した。人としての心得をわきまえている高校生もちゃんといる。さわやかな思いがした。(Y)

 

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