変わらない風景と、変わる風景。

2012.05.19
丹波春秋

 桜が満開のころ、朝早く起き、自宅近くの川辺の道を歩いた。川沿いに植えられた桜並木の美しさはさることながら、一面をおおった白いもや、遠くに見える新緑の山、足もとの小道に生えたみずみずしい草にも目を奪われ、心洗われる思いがした。▼まもなくこの川ではホタルが飛ぶだろう。夜の底に舞うホタルの明かりを見ていると、心を吸い取られる思いがする。桜といい、ホタルといい、それらは何ものにも代えがたい自然からの贈り物であると同時に、年月を経ても変わらぬ風景だ。▼しかし、車で町の中心部に出ると、様子が異なる。大型店、コンビニ、ファミレス、カラオケ店…。農村部でありながら、全国一律の均一化した風景が広がる。こうした風景を外食産業のファーストフードにひっかけ、評論家の三浦展(あつし)氏は「ファスト風土化」と言ったが、わが丹波もフ

ァスト風土化の波にのまれている。▼柏原の老舗の精肉店が5月末で閉店するという。開業以来、100余年の歴史を持つ精肉店が、柏原の商店街から消える。ファスト風土化の進展と、その陰での老舗の閉店。そこには時代と共に変わる風景がある。▼変わらない風景と、変わる風景。そのアンバランスにとまどい、変わる風景の行く末が心配になることが、ときにある。(Y)

 

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