日食

2012.05.24
丹波春秋

 太陽が細い細い月のようになったのを久しぶりに観た。日食観測用メガネを持っていなかったので、家の駐車場の脇で、プリペイドカードに穴を空けたのを要領を得ぬまま振りかざしていたら偶然、白い車体にくっきりと三日月が浮かび上がった。▼嬉しくて前を行く中高生たちに「見ないか」と声をかけるが、皆忙しそうに通り過ぎる。周囲がやや暗くなり、家の中の犬がキャンキャン騒ぎ出した。▼日食は古代の記録にも残っており、天岩戸の神話も日食に由来するらしい。今では小学生でも知っている原理ながら、その頃は「おてんと様が機嫌をそこねられた」と随分不安がられたことだろう。▼地動説は近代の西洋で日の目を見たが、日本の庶民たちの間では実際のところ、いつ頃からちゃんと認識されるようになったのだろうか。▼もし太陽が地球からずっと遠くにあったら我々は生きられないのは自明だが、それでは「もしも月がなかったら」どうか。ずばりその名の著(ニール・F・カミンズ、東京書籍)によると、潮の干満が弱く、太陽からの引力が強くなって地球は8時間で自転する。風が強烈に吹き、生物にとっての環境は目茶苦茶に悪くなる。そして現在も、月は少しずつ地球から遠ざかりつつある。日食も未来永劫には観られないのかもしれない。(E)

 

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