父に対する孝

2012.06.16
丹波春秋

 きょう17日は「父の日」―。高潔な人格と卓抜した見識から「丹波聖人」と言われた柏原藩の儒者、小島省斎は幼くして父親を亡くした。父親の記憶はなかったに違いない。そんな省斎だが、晩年、メガネを持ち歩くとき、小さな松が描かれた袱紗(ふくさ)にメガネを包んでいた。この松は父親が描いたものだった。父に対する孝の念が読み取れる逸話だ。▼父親を失い、貧苦の中で育ちながら学問を究め、柏原藩の藩主に講義までするようになった省斎。そんな自分の姿を父親に見せたくてもかなわない。藩主に講義をする名誉を父親と共にしたい。そんな思いから、父親の思い出が残る袱紗を愛用した。▼省斎は、藩政改革について藩主に進言もした。その中で、実現した一つが、人材育成を図るための藩校「崇廣館」の開校だ。現在の崇広小学校の校名は、崇廣館に由来する。▼崇廣館には、生徒らの守るべき規則を定めた「学規」があった。姿勢を正し、品性よくふるまうことなどを求めたほか、「家に帰ると、両親にうやうやしくお辞儀をしなさい」と命じた。親孝行が重んじられた時代を感じさせる規則だ。▼この規則を今の時代に取り戻すべきと唱えるのは、いささか時代錯誤だろう。ただ、こうした風土がかつてあったことは心にとめておいていい。(Y)

 

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