がんばろう

2012.07.30
丹波春秋

 「前畑がんばれ」。この有名なアナウンスで知られる水泳選手、前畑秀子は、1936年に開かれたベルリン五輪の200メートル平泳ぎの金メダリストだ。▼前畑は、4年前のロサンゼルス大会で銀メダルに輝いた。0・1秒差で金を逃したのだが、日本記録を一気に6秒も縮め、前畑自身は十分満足していた。ところが、祝賀会の席上で東京市長が目に涙を浮かべ、「たった10分の1秒差で負けた。私は悔しくて仕方ない」と話しかけてきた。▼この言葉がそもそものきっかけになり、ベルリンをめざした前畑は猛練習に明け暮れた。そして今度は、2位に0・6秒差をつけ金メダルに輝いた。五輪新記録のタイムだった。▼ロンドン五輪が始まった。過酷な練習に耐え、鍛え抜いた体力と技、精神力を持った選手たちが火花を散らす。その姿はまぶしく、美しく見える。より速く、より高度にと、自分の限界に挑戦し、乗り越えた者が持つ磁力は、見る者を引き寄せ、感動を与えてくれる。自分もがんばらなければ、と勇気づけてくれる。▼「前畑がんばれ」。この言葉が今も語り伝えられているのは、選手たちのがんばりを見て、自分を奮起させる心情が働いているせいかもしれない。選手を応援しながら、自分にもエールを送っているのだろう。「がんばろう」と。心も熱くなる夏だ。(Y)

 

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