木からのメッセージ

2012.08.09
丹波春秋

 花巻農学校の教師を務めた宮沢賢治は、生徒たちと一緒に野原を歩いているとき、「木の霊が話しているやーい」「おれの思想があの木に移ってるもなあ」などと話すことがあったらしい。木には霊があり、人に話しかけてくる。そんなこと、あるわけがないと一蹴するのは早計だ。▼山で「おうい」と叫べば、「おうい」と返ってくる「こだま」は、「木霊」とも「木魂」とも書く。昔の人々は、木には霊や魂が宿っており、それらが「おうい」と答えてくれると考えていた。▼本来、木と人は話ができる。その証拠に、法隆寺金堂や薬師寺金堂などの復興や再建にかかわった著名な宮大工、西岡常一氏は、弟子たちに「木と対話して仕事しなはれ」と教えた。日本で初めて「樹医」の道を切り開いた山野忠彦氏も、「木を治療するにあたって、まずやらねばならぬことは『木と話す』こと」と説いた(『木の声がきこえる』)。▼木は、私たちに話しかけてくる。ただ問題なのは、山野氏が指摘するように、木からのメッセージを受け取る「第六感」が私たちに備わっているかどうかだ。▼篠山市大山宮の追手神社にそびえる国指定天然記念物の「千年モミ」の樹勢が弱まり、治療に向けた動きが起きているという。千年モミは今、何を語りかけているのか。耳を研ぎ澄ましたいものだ。(Y)

 

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