素材

2012.09.22
丹波春秋

 土曜日夜、NHKで放送の吉田茂のドラマを楽しみに見ている。その中で、吉田が湯豆腐を食する場面があったが、吉田は湯豆腐が好物だったようだ。というのも、吉田の妻はとても聡明で芸術の才能にも恵まれていたが、料理はまるっきり駄目で、湯豆腐ぐらいしかできなかった。それで亭主の吉田は湯豆腐が好きになったらしい(『明治・大正・昭和史話のたね100』)。▼美食家の才人、北大路魯山人によると、湯豆腐というのは何よりも豆腐が肝心で、薬味やしょう油をいくら吟味しても豆腐がまずければ話にならないと言った。素材そのものが肝心というのは、湯豆腐だけでなく、人についてもあてはまろう。▼いくら才能があっても、いくら話術にたけていても、人そのものが練られていないと、物足りない。しかし今、人物と言えるほどの人がどれほどいるだろうか。特に政界に。▼「才人はいるが人物がいない。キャラクターがあっても人格がない」(福田和也『人間の器量』)。そんな嘆きが巷に渦巻いている。吉田茂ならずとも、「バカヤロー」と言いたくなる。▼吉田茂のドラマには柏原高校卒業の芦田均も登場する。芦田は、日本が国際連盟を脱退したとき、こう書いた。「実に険悪な気分だ。日本よ、どこへ行く」。時代背景は違っても、この感慨は今にも通じる。(Y)

 

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