ブータン

2012.10.27
丹波春秋

 90年代から2000年代初めにかけ、インドから独立を求めるアッサム州の反政府ゲリラが、隣国ブータン南部の密林に入り込んで活動拠点にしていた。インドと協力関係にあるブータン政府の再三の退去要請が無視され続けたため、4代国王(現国王の父)が自ら出陣を決意。ある冬の朝、キャンプを急襲し、大半を生け捕ってインドに渡した。▼死傷者は最小限にとどまったが、ブータンでは1世紀半ぶりの“戦闘”。双方の犠牲に心を痛めた国王は、ヒマラヤの峰々を見渡すドチュ峠に108の仏塔を建てて霊を慰めることにした。▼首都ティンプーから古都プナカに向け同峠を通る際、ガイドさんが教えてくれた。為政者としてのパフォーマンスもあろうが、信心深く、王への絶大な敬服を抱くブータン人のことを如実に物語る話。加藤登紀子さんが先週末、都心の時計塔広場でコンサートを開いたのも、人々の優しさに魅せられたからに違いない。▼医療も教育費も無料。「国民総幸福量」世界一を誇る同国ながら、財政のかなりの部分を国際援助に頼り、最大の収入源はインド向けの水力発電。それでも、脚光を浴びてきた観光には抑制的だ。課題は多いが、ティンプー大のテンジン・ヨンテン教授は「ゆっくり、バランスを取りながら10年内には解決できるでしょう」と話した。(E)

 

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