黒の彩り

2012.11.14
丹波春秋

 植野記念美術館の「丹阿弥丹波子―黒の彩り」展で、枯葉の絵に目が留まった。「風の道」。「風が通り過ぎて重なり合った落ち葉がわずかに形を変えてゆく。右から左へ視線を動かすだけの『時』。ささやかで貴い『時』の一滴…」という添え書きを読んでいると、かさこそという音がかすかに聞こえてきた。▼その隣の絵には、見えるか見えないかのような線に蓑虫がぶら下がって、やはり風の道に乗ってふわーっと揺れている。▼ベルソーという先の平べったいへらのような刃物で銅板に、1センチ四方に幾百もの細かい穴を刻み込んで地を作ってから、凹版の作製にとりかかるメゾチント画。ビロードのような黒のバックが奥行きを増す。洋画の大家が「あなたの絵は黒と白だけなのに、色を感じる」と話したという。▼自身が解説して下さった観賞会で、「花でも、見ながら描くのでなく、頭の中に叩き込んだ姿を、ここは緑、ここはピンクと思いながら描くの」と言われた。▼数年前、弊社で展覧会を開いて頂いた際、新聞の印刷工場に案内して「いずれはカラーの紙面にする計画です」と話したら、「カラーなんかより白黒の方が断然良いわよ」と即座に話された。さすが、父の日本画家、岩吉氏が霧を勉強しようと、妻の郷里の丹波と東京を往来していた時期に生まれた人である。(E)

 

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