江戸期の女性群像

2012.11.29
丹波春秋

 諸田玲子の近作「花見ぬひまの」は、江戸期の女性群像を描いた短編集。その中の1編「辛夷(こぶし)の花がほころぶように」に、田捨女が登場する。舞台は貞閑尼となって晩年を過ごした姫路・網干の不徹寺。訳あって逃げ込んできた豪商、灘屋の使用人おあん(架空の人物)を、師の盤珪の指示でかくまうという話だ。▼中央公論に連載されたシリーズで、他に高杉晋作ら幕末の志士を支援した野村望東尼、筑紫(福岡県)の郷里を捨て俳諧師と駆け落ちし、やがてその道で自らも名を成した諸九尼ら、それぞれ実在した尼さんが主役や脇役で出てくる。▼「当時の女性が自らの思いに忠実に生きられたのは、親の定めた結婚をし、子供を育て上げ、夫を看取った後、というのがほとんどだった」と諸田さん。捨女もまさしく、亡き夫に供養を尽くした後、これまでの生活を捨てて柏原を離れ、ひとり京に上った。財力があったとは言え、それには相当の意志が要ったに違いない。▼それにしても、「『女大学』の訓戒に縛られた封建時代の女性」という通念は、若干修正を加えなければならないかも知れない。本書に啓発され「女性の近世」(林玲子編、中央公論社)を紐解いたら、彼女らが階層を越えて遺した句や歌のみならず書画、陶芸などの逸品に目を見張らされた。(E)

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