体験に学ぶ

2013.03.09
丹波春秋

 東日本大震災の発生時、日本人のとった行動に各国から称賛の声が寄せられた。ニューヨーク・タイムズは、日本人の忍耐力や冷静さ、秩序を実に高潔だと称え、それは日本人の持つ我慢という特質にあると伝えた。▼未曽有の災害に遭いながらも冷静に行動し、助け合う。これを日本古来の倫理観と結論づけるのは、いささか早計に過ぎる。たとえば関東大震災。このとき、在日朝鮮人が放火をし、飲み水に毒を入れているなどの虚報を一部新聞社が報じたこともあり、各地で朝鮮人が虐殺されたという。▼哲学者の内山節氏は、この史実を踏まえて今回の震災時の日本人の行動を検証し、阪神大震災の経験やボランティア型社会の創造、他者のために生きようとする価値観の芽生え、などが背景にあるとしている(『文明の災禍』)。問題の多い日本社会ではあるが、体験に学びながら着実に成長している面があるのも事実だろう。▼哲学者のカントは、1755年に起きたリスボン大地震に大きな影響を受けたという。地震をはじめとした自然の恐るべき脅威に、人間は理性や構想力を高揚させる。その心の働きは「崇高」と呼べるものであり、そこに人間たるゆえんがあるとした。▼地震国日本に住む我々。来るべき大地震に備え、さらに理性や構想力を高めなければならない。(Y)

 

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