「山笑う」

2013.04.29
丹波春秋

 草木が一斉に芽を吹いたこの頃の山には、みずみずしい美しさがある。そんな山を表現して、「山笑う」という。冬の厳しさから解放され、明るく彩られた山を、昔の人達は「山が笑っている」と見た。山がケタケタと笑うはずはないのだが、日ごろから山に親しんでいた昔の人は、声こそ出さなくても、山も笑うに違いないと見たのだろう。▼仏教には「無情説法」という言葉がある。人間のような意思や感情を持たないと思われる山や草、木、石も説法をするという意味だ。もちろん山が説法をするわけがない。しかし、私たちの心が鋭敏に研ぎ澄まされると、山からも生き方のメッセージが届くと考えた。▼「山笑ふ心し渡る丸木橋」。本紙に「没登句画抄」を連載している植村八郎さんの句だ。画家として創作に励む一方、山を愛し、ふるさとの山に登り続けている植村さん。「作句を意識しながら登ると、さまざまな発見があり、より楽しめる」と話している。▼植村さんは「ただ体を使って登るのではなく、五感を使って登る」ことを勧めてもいる。作句を通して五感を高め、感性がより鋭敏になると、山との言葉なき対話も深まるに違いない。▼ゴールデンウイークが始まった。インドア派の当方。山登りは敬遠するが、新緑の美しい山を眺めて心通わせ、心を浄化したい。(Y)

 

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