矯正歯科医 山本一郎さん

2002.04.18
たんばのひと

母親のサポート役に
矯正歯科医 山本一郎さん  (西宮市在住)
 
(やまもと・いちろう) 一九四八年 (昭和二十三年)生。 篠山市 (旧西紀町) 川北出身。 篠山鳳鳴高校、 大阪歯科大卒。 大阪中央病院歯科、 英国・グラスゴー大歯学部歯科矯正学大学院留学を経て、 西宮市仁川町で開業。
 
 口唇・口蓋裂 (こうしん・こうがいれつ) の異常を持って生まれてきた赤ちゃんを前に、 母親の精神的な痛みや不安は計り知れない。 歯科医師としては、 珍しい歯の生えていない零歳児の治療にあたっている。
 口唇・口蓋裂の赤ちゃんにとって大変なことは、 母乳を飲めないこと。 留学していた英国の大学で、 マクニールという講師が開発した 「マクニール床」 と呼ばれる哺乳床を知り、 帰国後に開業した医院で導入した。 現在はホッツ床と呼ばれる哺乳床を使用している。
 赤ちゃんが母乳を哺乳できるように、 上あごの型をとった哺乳床を装着する。 その後に三カ月で口びる、 一歳から一歳半で口蓋の手術を口腔外科、 形成外科で行う。 「手術も改良され、 傷も目立たなくなりました。 治療を通じて、 周囲の目など社会の偏見を取り払う啓発も私の役目」 と言う。
 治療に訪れる母親にアンケート調査もして、 その気持ちを身近に感じ取るように努力もした。
 開業する歯科医院には、 飲む、 食べるという以外に話すという口の機能を回復させるために、 国家資格の言語聴覚士を雇用。 内視鏡でのどの締まり具合を検査したり、 音響分析器で音を分析している。
スピーチエイド (発音補助装置) を口腔内に装着して言語訓練も行っている。 さらに、 「やさしく時間をかけて-口唇・口蓋裂児の母乳育児について-」 というスイスの本を日本語に訳し、 産科の医院などにも配付。  開業の歯科医がこうした治療を行っている例はなく、 全国各地から問い合わせも多い。 「助産婦、 保健婦さんらから精神的に不安を抱えるお母さんに対して、 どう対応していったら良いのかを尋ねられることも度々あります。 一回、 一回訪問するわけに行かないので、 電子メールを使って返事を書いています」
 「歯科医になったのは、 歯科材料商を営んでいた父親の影響が大きい」。 趣味は絵画。 「小学校時代に絵画教室に通って以来、 絵が好きになりました。治療の合間を縫って楽しんでいます」 と話し、 ストレス解消になっている。
(臼井 学)

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