刺繍作家 篠原よね子さん

2003.01.16
たんばのひと

針刺しつ想う故郷
刺繍作家 篠原よね子さん  (東京都三鷹市在住)
 
(しのはら・よねこ) 旧姓佐々木。 1932年 (昭和7年) 青垣町生まれ。 篠山高等女学校 (現篠山鳳鳴高) 中退。
 
 「私たちの青春は戦争でむちゃくちゃにされました。 生きていくのがやっとで、 将来の夢などあきらめるのが当たり前でしたからね」。 自身も、 高等師範学校を出て教師になるという夢を捨てた。
 戦後、 東京で平凡な専業主婦生活を送っていた頃、 友人に誘われ刺繍に出会った。 入会してすぐ、 「単なる趣味に終わらせたくない。 人に教える仕事にしたいので厳しく指導してほしい」 と指導者に直談判。 8年間の厳しい修行が続いた。 もともと手芸にたけていたが、 刺繍そのものよりも 「人にものを教える立場」 にこだわりがあった。 「教師になりたかった夢をここで実現しようと思ったんですねえ」。
 2人の男児を連れての習い事。 夫の休日には子供を預けて教室通い。 締め切りに追われてしばしばの徹夜。 「無我夢中の8年でした」。 ようやく先生から独立を認めてもらい、 自分で刺繍教室を開くことに。
 79年に 「フランス刺繍・篠原教室つつじ会」 を設立。 あちこちに教室を設けて指導に回った。 毎年のように都内有名デパートで作品展を開き、 再三、 作品集を出版。 現在は夫の経営するカルチャーセンターでも教室を持っている。 ただ、 バブル経済のはじけた後、 刺繍人口は減少に向かっている。 「長時間落ち着いてチクチク針を刺してなんかいられないご時世でしょ。 心の安寧があって初めて楽しめる趣味ですから」。
 3回目の作品集の冒頭に 「ふるさとの冬」 という題の大作。 雪に埋もれる山村の風景が細かく刺繍され、 「幼い頃の故郷が思い出されます」 と書いてある。 「田舎に育ったお陰で、 四季の移り変わりを表現するのが得意なんです」。 紅葉や霧の深い空間の遠近感を表現するのに、 「グラデュエーション」 といって、 少しずつ糸の色をぼかしていく。 「故郷の 『おおみ山』 を思い浮かべながら、 刺して行きますのよ」。
 「ものを教えるのは技術だけではありません。 世間話などを楽しみ、 幸せな時間を共有することによって、 人と人との良い関係を培うのですね。 教師になりたかった夢は実現したと思いますよ」。
 3月20日から24日まで、 銀座カネマツでの作品展開催の準備に余念が無い。

(上 高子)

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