先日、所用で山口県に行ったついでに吉田松陰の松下村塾を初めて見学した。

2006.12.19
丹波春秋

先日、所用で山口県に行ったついでに吉田松陰の松下村塾を初めて見学した。高杉晋作や伊藤博文など有為の人材を多く育てた松下村塾。その建物は想像していたよりも小さく、こんな簡素な小屋から新時代への動きが起きたことに感慨を深くした。▼「丹波人物志」「丹波史年表」など多くの著作を残した松井拳堂も、松陰にずいぶん発奮されたようだ。93歳の長寿をまっとうした拳堂だが、晩年、「見よ、松下村塾を。吉田松陰はわずか二間の陋屋(ろうおく)で2年余の短期間に、維新の大業をなしとげた幾多の英才を教育したではないか」とよく口にし、自らを叱咤したという。▼拳堂も、旧制中学校で教べんをとった教育者だった。試験を好まなかった拳堂先生の教育ぶりはユニークで、やむを得ず試験をするときは、生徒の腹をたたいたり、不意に後ろから驚かしたりしたという。小ざかしい知識ではなく、肝っ玉を試験したのだ。▼松陰は、知識と行動が結びつく「生きた学問」を重んじた。理屈を言うだけで、実践力に欠ける評論家を何より嫌ったという。この点、生徒の肝っ玉を試した拳堂は、松陰と相通じている。▼現代の教育を省みずにいられない。知識を点数化し、その優劣を競うことを第一義にしている教育で、維新の志士のような人材は育つのだろうか。(Y)

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