柏原日赤の分娩休止 守れるか 地元出産

2007.03.29
丹波の地域医療特集

制限寸前の柏原病院
過酷な現場、産科医増えず

産科医や助産師に見守られ、県立柏原病院で無事元気な男の子を出産した女性。地元でのお産は守られるのか―

72人が転院丹波外へ4割

 2月末で柏原赤十字病院 (柏原日赤) が分娩の取り扱いを中止した。 今月末で産科も休止となる。 妊婦たちの 「地元で産みたい」 というニーズに応えることはできるのか。 現状を探った。          
  「柏原病院も急に産科がなくなるんじゃないか。 産めるところがあるのかと心配になった」。 県立柏原病院で3月半ばに出産した女性 (25) =丹波市=は、 「実家に近い病院で産みたい」 と、 柏原日赤を希望したが、 県立柏原を紹介された。
 柏原日赤は、 3―7月に分娩を予定していた72人に、 他院への紹介状を書いた。 転院先は患者の選択に任せたものの、 「日赤で産みたい」 という希望は叶えられなかった。 結果的に、 54%の39人が県立柏原へ移り、 約4割の28人が丹波地域外の病院や診療所 (ベッド数19床以下) へ転院した。
 県立柏原の産科医は3人。 対応できる分娩数は月35人程度のため、 1月から分娩の予約を取り始めた。 2月には、 3月の予約数が39人になり、 「制限寸前」 の状態に。 今後すでに 「35人」 に達している月も出ている。
 医療施設の分娩休止は、 全国で相次いでいる。 国の研修医制度変更が招いた地方の医師不足に加え、 訴訟の多さなどから産科医のなり手がなくなっている。 県医務課の調査によると、 04年4月から今年1月末までに県下で12病院が産科を休止した。
 総合病院はいろいろな科の医師やスタッフがいるのが強みだ。 手術となれば、 麻酔科、 外科、 内科らも協力する。 また新生児は小児科医が診るが、 丹波地域では小児科も医師不足だ。「小児科が休止になれば、 産科もやめになる」 と上田康夫・県立柏原産婦人科部長はいう。

365日緊張産科医ら奮闘

 産科医の職場は過酷だ。 分娩で病院に泊まることも多い。 他科も同様だが、 当直明けの日は36時間勤務。 「365日緊張を強いられていた。 休みでも遠くへは行けず、 夜中に電話が鳴ると胸が締め付けられるようだった」 とある産科医はいう。
 また、 福島県立大野病院の医師が、 帝王切開中の医療事故で患者を死なせたとして、 昨年2月に逮捕、 起訴された事件は、 全国の産科医らに衝撃を与えた。 県立柏原の産科医は 「必死で助けようとしたのに、 逮捕されてしまう。 そんな社会で医者が続けられるだろうか。 あの事件以来、 何かが切れてしまった」 と話す。
  「世間の人が考えているように、 お産は絶対安全なものではない」 とある産科医。 柏原日赤の平省三院長も 「お産の安全神話は誤解だと認識してほしい」 と訴える

出産で輸血処置日赤で昨年3件

 厚生労働省研究班は、 出産時に一時でも重篤な状態に陥った妊産婦は、 実際の死亡数の70倍以上、 250件に1人の割合にのぼるというアンケート結果を発表した (04年実績で333施設から回答)。 実際、 柏原日赤でも昨年、 大量出血による輸血処置を行った出産が3例あった。 癒着胎盤などで、 分娩前には予想されていなかったケースだ。
 国内における妊産婦死亡は、 最近では10万人に4―7人、 周産期死亡 (妊娠22週以後の死産と出生後7日以内の新生児死亡) も、 1000件に5人で、 死亡率の低さは世界トップクラスになったが、 今も昔もお産が 「命がけ」 であることに変わりはない。
 05年度は丹波市で531人、 篠山市で297人の赤ちゃんが生まれた。 「里帰り出産」 も含め、 丹波地域内で▽県立柏原=251人▽兵庫医大篠山=85人▽柏原日赤=217人▽タマル産婦人科 (06年) =214人―が出産した。
 柏原日赤の産科が廃止されたが、 「受け皿」 とされる県立柏原の産科医は増えていない。 篠山病院は、 産科医が1人だけになった。 岩忠昭・篠山病院長は 「医師の使命感におぶさっているだけ。 今の医師がいなくなれば、 おそらく後任は派遣されないだろう」 という。
 丹波地域の産科は危機的な状況にある。 このままでは本当に、 地元でお産ができなくなってしまうかもしれない。 (徳舛 純)=07年3月29日掲載

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