柏原看専廃校問題「市立」で存続へ協議 来春も学生募集の可能性

2012.07.26
丹波の地域医療特集

 辻重五郎丹波市長は7月23日の市議会民生常任委員会で、 県病院局が2015年3月末で閉校を決めている県立柏原看護専門学校 (丹波市柏原町柏原) について、 市が3年後をめどに県から移管を受けるべく、 県と協議に入る考えを示した。 現在は、 「募集停止」 となっている新入生の募集も、 県との協議が整い次第、 行う予定。 移管前の、 来年と再来年の新入生については、 県病院局がこれまで通り募集する見通し。 来年4月入学の学生募集を早急に行わなければならないため、辻市長は、「8月早々に方針を決める」と述べた。

 辻市長によると、 7月12日に知事部局の県民企画部長から、 廃校に変わりはないが、 同看専の受け皿にならないかと打診があったという。 その際、 「県も支援する」 と言われたという。

 市と県は、 ▽県立から市立に移管した際の、 看護学校の教官確保などの運営の問題▽老朽化している学校の施設整備費の問題▽毎年の学校運営経費の市と県の負担割合―などを協議する見通し。

 協議が整えば、 県病院局が、 厚労省近畿厚生局に届け出ている 「学生の募集停止」 を撤回し、 来年、 再来年は県病院局が学生募集を続け、 学生が途切れることなく、 市に移管される見通し。

 辻市長は、 「8月早々に方針を決めないと、 進路指導に影響する」 と言い、 「現時点で県と市の間に具体的な約束はないが、 早く結論を導く」 と述べた。 一方、 県からの支援が乏しい場合は、 市が受け皿にならない考えがあることも示唆。 合わせて、 県からも 「いつ交渉を止めてもらってもいいと言われている」 と述べた。

 市によると、 県立では交付されない地方交付税が、 市に移管されると算入され、 1学年40人規模の看護学校の場合、 1人につき、 年額54万9000円 (昨年度実績) が交付される。 毎年約6000万円程度の収入が見込め、 市の一般会計からの持ち出しは、 「県との負担割合の交渉にもよるが、 3000―4000万円ほど」 (辻市長) になるという。

 同看専をめぐっては、 昨年10月に県病院局が廃校と、 2012年度からの新入生の募集停止を決めた。 事前に市に相談はなく、 「一方的だ」 として、 市や市議会が存続を求めていた。

 県立のままでの存続はかなわなかったが、 設置者を市に変えて存続する可能性が浮上した。

写真・廃校から一転、市立で存続の可能性が浮上した県立柏原看護専門学校

【解説】知事が「格別な配慮」か

  「7月上旬以降、 県の対応が急に変わった」 と、 辻市長は述べた。 県が 「変わった」 理由を、 辻市長は、 「推測だが」 と前置きした上で、 「市民がいろいろ言ってくれて、 『地元の意見を良く聞いて』 ということになったのだろう」 と述べた。

  「地元の意見を良く聞いて」 と言った 「主語」 は、 井戸敏三県知事と推察される。 今回の 「受け皿」 話が、 これまでの市の交渉相手の県病院局という 「出先」 の一機関を飛び越え、 知事直轄の県民企画部長からもたらされたことからも、 知事の政治的配慮、 指示が濃密にうかがえる。

 同校廃校の根っこは、 県の行革による。 年1億円以上かかっている運営経費の削減だ。 運営費は、 県本体から出ており、 病院局は、 「仕送り」 で運営していたに過ぎない。 県本体の行革担当部門・財政当局の 「理解」 が、 看専存続には不可欠だった。 知事が、 県の官房中枢に 「軟着陸路線」 の模索を指示したことで、 「交渉」 のテーブルが生まれたようだ。

 県が舵を切ったのと同じころ、 知事と同席した人が、 「地元として看専のこれからのことをよく考えるように」 と言われてもいた。

 4月に野田佳彦首相が来丹した際、 県立柏原病院の小児科を守る会の丹生裕子代表が井戸知事に手紙を手渡した。 6月に日赤県支部の会合で井戸知事と同席した荻野美代子・前丹波地区日赤奉仕団長も席上、 知事に物申した。 いずれも、 看専の廃校を市民が強く憂いており、 格別の配慮を知事に求める中身だった。 2人とも、 「県直営でなくても良い。 市を受け皿に」 と要望した。 辻市長が市議会で説明した、 「県立から市立への経営形態の変更」 も、 2人が知事に届けた声と符号する。

 本来、 地元協議は、 廃校を決める前に行われるべきものだ。 来春入学生の学生募集を始める時間的制約を考えると、 極めて短期間に結論を導かざるを得ず、 「異例」 の交渉経過をたどらざるを得ないだろう。 「私も石川憲幸県会議員も何度も県病院局に足を運んだが、 絶対に (廃校は) 変えないと言っていた」 (辻市長)。 打つ手がないまま土俵際まで追い込まれたが、 「市民の声」 という徳俵、 市民の声を聞いた知事の 「格別の配慮」 で、 「残った」。 体勢を立て直せるか否か。 あとは、 市がどう応えるかだ。(足立智和) 

 

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