案山子

2018.09.23
丹波春秋未―コラム

 「山田の中の一本足の案山子」で始まる「案山子」という文部省唱歌がある。歩くことができず、朝から晩まで立ったまま。弓矢を持って脅してみても、山ではカラスが笑っている。案山子をからかっているように思える歌詞だ。

 力があるように見えて、実際には力がない。だから「案山子」という言葉には、「見かけばかりの無能な人間」という意味があるのだろう。

 確かに案山子は積極的に鳥や獣を駆逐したりはしない。その意味では無力だろうが、唱歌でも歌われたように、案山子は子どもにも親しまれる農村の造形物である。案山子という言葉を聞くと、一面に広がる田んぼ、たおやかな山や川、素朴な生活の営みなど、ふるさとの風景が一度に広がる。

 さだまさしさんに「案山子」という歌がある。「元気でいるか街には慣れたか 友達出来たか 寂しかないかお金はあるか 今度いつ帰る」。都会に出た我が子を案じる親心を歌ったこの曲に「案山子」というタイトルはよく似合う。それは、案山子がふるさとの象徴であるからに他ならない。

 本紙5面で市島町の鴨庄地区を紹介している。鴨庄では毎年「案山子まつり」が開かれ、すっかり名物になった。帰省客のあるお盆の時期をはさんで開かれるこの祭り。それは、ふるさとの温もりを伝える祭りでもある。(Y)

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