終活

2018.11.11
丹波春秋未―コラム

 過日、終活セミナーをのぞいた。参加者は50人ほど。会場をいっぱいに埋め、終活に対する関心の高さをうかがわせた。

 人生百年時代と言われる。長生きできる世の中だから、現代人は死から遠ざかっているのかというと、そうではない。作家の五木寛之氏は「超高齢者が増加したということは、それだけ『死に近い人間』の数が多くなったことを意味します」と書いている。死に近い人たちの層の増大も現今の終活ブームの一因だろう。

 いかに人生の幕引きをするか。8代目桂文楽の逸話が興味深い。昭和46年8月、国立劇場での高座に上がり、話が3分の1ほど進んだとき、ふと絶句したという。10秒経ち、20秒経っても押し黙ったまま。客席から野次が飛び始めた中、文楽は「相すみません。台詞を忘れましたでございます。また勉強し直して参ります」と言い、深々とお辞儀をして袖に引っ込んだ。

 まもなく体をこわして入院し、その年の暮れ、79歳で亡くなるのだが、文楽は最後となったこの高座のずいぶん前から「相すみません」というお詫びの言葉と、言うときの姿勢、目のやり方、お辞儀の仕方を稽古していたという。

 老齢のために高座を去る日が遠くないことを予期し、万一、失態を演じた際の備えをしていたとすれば、これはあっぱれな終活だ。(Y)

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