かわいい子には旅をさせよ


 「かわいい子には旅をさせよ」。このことわざは、室町時代にはすでに一般の人々の間に広まっていたという。類したことわざとして、「かわいい子には冷や板踏ませよ」「かわいい子には普請をさせよ」などがある。いずれもある程度の辛い体験をさせるのが、子どものためになるという教え。

 「渡る世間に鬼はない」「人を見たら泥棒と思え」など、ことわざには、正反対の意味のことわざがつきものだが、「かわいい子には旅をさせよ」の一群には、それがないらしい。古くから伝わっていることも考え合わすと、このことわざの真実味がわかる。

 「死なない程度に病気をしてみなさい。必ず君たちの役に立つから」。105歳で亡くなった医師、日野原重明氏は医学生や若い看護師にしばしばこう話した。自身の体験に基づくアドバイスだった。

 大学1年の夏休み、当時、不治の病と言われていた肺結核と胸膜炎にかかり、8カ月もの間、生死の境と絶望の淵をさまよった。その過酷な体験がなければ、患者の痛みや苦しみが理解できない尊大な医者になっただろうという。

 日野原氏のアドバイスは、若い人たちに一度は辛い思いを味わってほしい、「旅をしてもらいたい」という親心であったに違いない。「成人の日」を前に、老婆心からこんなコラムを書いた。(Y)