人口減に”誇り”で挑めるか 日本遺産認定のまち、裏で「農」に危機 地方都市の光と影


写真・ユネスコの「創造都市ネットワーク」に認定され、くす玉を割って喜ぶ酒井市長ら=篠山市北新町で(2015年12月)

 日本遺産認定、ユネスコ創造都市ネットワーク加盟、そして、「丹波篠山市」への市名変更―。兵庫県の内陸部にある篠山市を内外にPRするため、近年、相次いで登場した”冠”たち。地域の活性化を狙い、外部から人を呼び込むための戦略だ。外に向かって、「丹波篠山」がこれまでにない輝きを放つ一方、足元に目を凝らすと、人口減少という暗い影が確実に広がっている。「もうすぐこの村はなくなる」―。そんな声さえ聞こえるのが実情。地方都市の光と影を探った。

 

□戦後一の快挙■

 「大きな喜びであり、誇りであります。戦後一番の歴史的な快挙ともいえます」―。

 酒井隆明市長がそう高らかに宣言したのは2015年。4月に、「丹波篠山 デカンショ節―民謡に乗せて歌い継ぐふるさとの記憶」というストーリーで、篠山市が日本遺産第1号、全国18件の中に入った時のことだ。日本遺産は、日本の文化・伝統を語る「ストーリー」を遺産として文化庁が認定。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに100件が認定される。

 同年12月には、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が創設している「創造都市ネットワーク」のクラフト&フォークアート分野に認定。神戸や名古屋、金沢、札幌、浜松など、名だたる都市が認定されている世界のネットワークに名を連ねた。

写真・文化庁からの補助金を使って製作された「デカンショモニュメント」

 さらに17年4月には、陶器の産地6市町で、「きっと恋する六古窯」のストーリーで2つ目の日本遺産に認定される。市創造都市課は、「文化を保存するだけでなく、活用し、観光などにつなげていくもの。いわば文化で”稼ぐ”こと」と胸を張る。

 日本遺産認定には、文化庁からの補助金という”実利”も。デカンショ節による認定では、3年間で9400万円が交付され、「丹波篠山デカンショ館」(同市北新町)の整備や、デカンショ踊りのモニュメント制作、遺産のまちを示す道路看板などに使われた。

 

□効果じわり?■

 いずれも、脈々と受け継がれてきた篠山の文化に対する勲章だが、市民への浸透はまだ十分ではない。「篠山は世界遺産に選ばれたんや」「そんなあほな」―。そんな声も聞こえる。

 日本遺産やユネスコ創造都市による効果は、どれほど出ているのか。市が独自に推計している観光客入込数。2012年度から17年度で、最も人数が多かったのは、遺産に認定される3年前の12年度で176万人。13年度は166万人、14年度は162万人に下降。最初の日本遺産認定や創造都市に加盟した15年度は166万人。その後、16、17年度は再び170万人台に戻っているものの、”効果”と呼べるほど大きな変化はまだ出ていない。

 市商工観光課は、「入込数は、決められた観光地点で割り出すもので、商店街を歩いている観光客は確実に増えている。これから、さらに効果が出るはず」と分析する。

 多くの観光バスが出入りする観光拠点施設は、「昨年の秋などは、これまでにない観光客数だった。これからさらに増えてほしい」と期待。また、丹波焼のある窯元も、「最近はイベントを開くたびに人でごった返す。日本遺産の効果もあるのでは」と話す。

 

□急減する農家■

写真・豊かな自然が残る篠山の風景。日本遺産などに認定される一方で…

 篠山の売りの第一に上がるのが「農」。お節料理で有名な特産の黒豆は、日本遺産や創造都市に勝るとも劣らない、あるいはそれ以上の知名度を誇る。黒豆の枝豆は秋の収穫シーズンになると毎年、都市部から人が押し寄せる。人を呼び、収益が上がるという、地域経済の盛り上がりを具体的に垣間見る瞬間だ。

 

 しかし、その農業には危機が迫る。07年度、市内に5240軒あった農家は、17年度には4973軒に減少。わずか10年で、267軒減っている。作物別では、▽水稲=4336軒から3314軒(マイナス1022軒)▽黒大豆=3249軒から2845軒(同404軒)▽黒枝豆=1636軒から1320軒(同316軒)。▽山の芋=871軒から578軒(293軒)―。

 主な要因は高齢化と担い手不足。その根幹にあるのが、「人口減少」だ。市の人口は1950年代に5万7083人だったが、以降、減少を続け、今年1月末時点で4万1760人。およそ70年で1万5000人減った。市が将来の人口を見通した人口ビジョンでは、2020年代に4万人を切り、2060年代には2万973人と現状からも半減すると予測する。

 

□誇 り■

 名だたる勲章を与えられた「文化」。まち一番の売りを生み出す「農」。その大元にある「人口」の減少にメスを入れることはできるか。

 市は、「日本遺産も創造都市も、篠山がすごいところだと認めてもらったもの。今すぐ効果があるものではないが、市名変更も含めて住民が地元に”誇り”を持つことで、新しいまちづくりの動きが出たり、そんなまちに魅力を感じて移住する人も出てくるはず」。

 全国の地方都市が抱える人口減少という特効薬がない問題に、「誇りの醸成」で立ち向かおうとする市の影で、今にも消えそうな集落の取材に出向いた。

 =つづく=