思い出と感動呼ぶ人形たち 昭和は遠くなりぬれど「あの頃の優しさを」

2019.03.18
ニュース丹波篠山市地域

昭和の情景を描いた人形と作者の渡部さん=2019年3月16日午前10時20分、兵庫県篠山市市野々で

「新元号が近づき、昭和は遠くなっていくけれど、あのころの心の豊かさを伝えたい」―。そんな思いを持ち、昭和の情景を描写した人形を作り続ける作家がいる。縁側で談笑するおばあちゃんたちや囲炉裏の周りに集まる家族。自身の記憶を頼りに、緻密に描写した作品たちが、見る人に昭和の思い出や感動とともに、「温かさ」や「優しさ」を想起させる。

作家は渡部美智子さん(66)=兵庫県たつの市。渡部さんは高知県窪川町(現・四万十市)出身で、40年ほど前から趣味で粘土を使った人形創作を始めた。

当時は洋風の人形を作っていたが、15年前に夫と死別。夫は「人を癒やすことを目標に生きていきなさい」という遺言を残したという。また、8年ほど前に足の病を患い、痛みを忘れようとさらに創作に没頭する中で、夫の言葉もあり、「心に触れるような作品を作りたい」「自分が生きた証拠を残したい」と作風を一変。自身の記憶の中にある昭和の風景を題材にするようになった。

モンペに頬かむりをしたおばあちゃんたちが談笑しているものや、紙芝居に群がる子どもたち、駅のホームで見えなくなるまで見送ってくれた祖父母、寝転がって新聞を読む父の背中で遊ぶ子どもたちなど、昭和の情景がありありと浮かぶものばかり。しわや血管の一本一本まで細部にこだわり、服や自転車、大八車もすべて手作りだ。

作品を見た人々は、「懐かしいわぁ」「涙が出そう」「ちょっとお墓参りにでも行こうか」などと口々に話しながら、人形を通して思い出と向き合っている。

「昭和はみんな仲が良く、しょう油やみその貸し借りなど、助け合って生きていた。今はどこか、人間らしさがなくなってきているように思う」と渡部さん。「昔を思い出し、優しさを思い出すきっかけにしてもらえたら」と期待する。

今月24日まで、兵庫県篠山市東部の市野々地区で作品展を開催中。展示会場の集落は、里山に囲まれ、わらぶき屋根の家が立ち並ぶなど、田舎の原風景を色濃く残した場所で、作品の世界が現実にも垣間見える。

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