「グリーンブック」

2019.04.18
丹波春秋未―コラム

 アカデミー作品賞の映画「グリーンブック」は、素晴らしい。1960年代、人種差別が色濃く残る米南部を公演旅行する黒人天才ピアニスト、シャーリーと、用心棒兼運転手に雇われた粗野なイタリア人、トニーが次第に友情を深めていく、実話に基づいた物語。音楽が胸を強く揺さぶる。

 カーネギーホール階上の高級マンションに住むシャーリーは、偏見に満ちた南部の人々からも招かれるほどの実力者だが、それでも現地での歓迎パーティーでは表向きの友好の裏で白人用トイレは使わせてもらえず、泊まれる宿も限られている。白人のいるバーに出向いて袋叩きに会い、警察にしょっぴかれる。

 それでも決して感情を露わにせず、抵抗せず凛とした態度で相手の心に何かを植え付けようとするのがシャーリーの流儀だが、ストレスは募り、毎晩ウィスキー瓶を手離せない。

 グリーンブックとは、60年代半ばまで毎年改訂しながら発行されていた黒人旅行者向けガイドブック。利用できる宿や日没後の外出禁止情報などが記載されていたという。

 かつては黒人が使ったコップをゴミ箱に投げ捨てていたトニーが旅から帰り、友人から差別言葉で「一緒で大変だったろう」と言われて、「そんな呼び方はやめろ」と毅然とたしなめる場面がこの映画のすべてである。(E)

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