食膳の平和

2019.04.28
丹波春秋未―コラム

 新緑の好季節だ。水田に張られた水が陽光にきらめき、すがすがしい緑が広がる。清新さに満ちた四辺に身を置いていると、我が心も清新な空気で洗われるような気がする。春はいい。

 食い意地の張っている当方。その意地汚さを満たしてくれる点でも春はいい。天ぷらにしても佃煮にしても美味なフキノトウに始まり、今はタケノコの時季。朝に掘ったばかりのタケノコが夜の膳に出る。何とも至福の味わいだ。

 随筆家の山本夏彦氏が書いている。「食卓の豊富ということは、むやみに何でもあることではない。季節のものさえあれば、それでいいのである。…この世に、もし平和というものがあるならば、季節のものだけしかない食膳の上にあるのではないか」。同感だ。

 昭和は戦争へと突っ走り、おびただしい血を流した。その代償として私たちは平和のありがたみを知り、昭和の後半から引き続いて平成も戦争のない暮らしを享受できた。しかし、大規模な自然災害が頻発し、多くの人命が災害の犠牲となった。その代償として得た一つは、「想定外」ということは通用しないという教訓だ。

 何が起きてもおかしくない。引き続き令和もそんな時代であろうと覚悟しなければならない。そう考えると、今年も春の恵みを味わえたことの幸いに感謝しなければと思う。(Y)

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