しきたり?相応負担? 地方の「入村料」 公民館改修重なり「50万円」も 移住のハードルか

2019.07.01
ニュース丹波市地域

自治会への加入を呼びかけるチラシ

新しい住民が地域に移住してきた際、「入村料」「村入り」などの名で、費用を求める自治会が全国の地方にある。今では自治会という名前だが、以前は、「村」だったことを今に伝えており、それぞれに伝わる”しきたり”として規約もないまま受け継がれているものから、明確に金額の根拠があるものまでさまざま。都市部からの移住者には驚かれる一方、地元には、「これからも村を維持していくため」という考えがある。ただ、人口減少や都市部から若い移住者が出始めた昨今の情勢を受け、減額したり、制度自体を廃止する自治会も出てきた。過渡期にあるのかもしれない入村料を巡る動きを探った。

 

村の物を共有するためのお金

「入村料」を求める理由は、多くの場合、公民館や神社など、自治会が所有する建物などは、従来、そこに暮らしてきた住民が費用を負担して建てたり、修繕したもので、自治会の財産を共に使用することになる新住民にも相応の負担を求めるというもの。簡単に言えば、「村の物を共有するためのお金」ということになる。

自治会が保有する山林などを売却した際の利益を分配する権利を含んで、入村料を求めるケースもある。

兵庫県の内陸部・丹波篠山市のA自治会は、「村入り」として8万円、加えて自治会が建てた公会堂の維持管理などに4万円、有線放送の引き込みに2万円と、計14万円を求める。また、B自治会は、「加入金」として6万円を求める。

C自治会は、「施設利用協力費」という名称で14万円。以前は約30万円だったが2005年に規約を改正した。金額の根拠は、自治会館の建設費用にと、住民が積み立ててきた金額に合わせてあるという。

元役員は、「建物の維持管理や電灯代など、自治会の運営には費用が掛かる。もともとの住民がお金を出したものを使うのだから、新しい住民にもそれなりの負担を求めることを理解してもらいたい」と話す。

数年前、同県丹波市のD自治会内に夢のマイホームを建てた男性は、初めて参加した自治会の常会で50万円の「村入り費」の存在を伝えられた。自治会が公民館を改修するタイミングだったため、高額になったという。

「ローンの支払いもある中だったので、高額の村入り費に驚いた」と男性。それでも村入りを決めたのは、「子どものことを考えると、自治会にある子供会に入れてやりたかった。田舎のことだし、横の付き合いをした方が仲良く暮らせるだろうと思った」と話す。

丹波篠山市でも移住したタイミングが自治会が管理する社の修復時期と重なったことで、入村料と合わせて50万円になった例もある。

 

「法的根拠はなし」規約ない例も

そんな入村料は絶対に払わなければならないものなのか。

自治会を担当する丹波篠山市の市民協働課は、「入村料に法的な根拠があるかと言われれば、ない。入村料はあっても、その規約がない自治会もあり、昔からの”しきたり”が引き継がれているだけという例もある。それでも、自治会を維持するために入村料を求める地元の気持ちも理解できるところがあるので、新住民が納得さえしてもらえれば」と話す。

丹波篠山市には260自治会、丹波市には299自治会があるが、名の通り、自治組織であり、両市の行政も入村料の全容を把握していない。

丹波市の住まいづくり課は、昨年、市内の全自治会に村入り費や月々積み立てる自治会費などについて回答を求めるアンケート調査を行ったが、「年度ごとに金額の改定もあるし、実情はつかめていない」という。

「都市部からの移住希望者にすれば、村入り費や自治会費、日役など聞きなれない言葉や習慣もあり、とまどうことは多いだろう。自治会長とよく相談し、納得した上で決めてほしいと伝えている」と話す。

 

若手は否定的な見解

入村料制度がある丹波篠山市の自治会で暮らす若手住民は、「人口が減る中で、移住者が来てくれるのはとてもうれしいし、何をするにしても貴重な戦力になる。しかし、若い世代にとって入村料は大きな負担。求めたい気持ちもわかるが、今の時代、いつまでもあっていい制度ではない」と否定的な見解。

一方、別の住民は、「今、制度をなくすとしたら、払ってもらった人と払わずに済んだ人ができ、不公平になるし、トラブルのもとになる。なかなか制度がなくなることはないと思う」と話す。

入村料の起源についてはよくわかっていない。移住・定住事業を担う丹波篠山市の創造都市課は、「昔は住民の大半が農業者。田畑やため池など、元々そこで暮らす住民が整備してきた土地を新住民が利用するなら、それなりの負担を求めるという制度から始まったのでは」と分析。「農業者同士なら理解も早いけれど、今はいろんな職業の移住者がいるため、理解の仕方も変わってくる」としつつ、「近年、入村料をなくしていく地域も出てきており、過渡期なのかも」と話す。

長く続いてきた入村料制度を廃止し始めた自治会の思いは。また、移住の窓口となる業者などは、新住民に対してどのような説明をしているのか。

 

入村料なくす傾向、かつてはトラブルも

現在、入村料が0円の丹波篠山市のE自治会。かつては20―30万円を求めていた。「そんな大金払わなあかんのやったら自治会に入らない」という人もおり、もめた時代もあったという。

しかし、新たに施設を建てることもなくなってきた十数年前に5万円に減額。その後、制度を廃止した。5万円に減額した際でも、自治会に入らない人は一定数いた。

またF自治会では、40年ほど前まで80万円を求めていた。自治会が持つ山林の木が売れた際の利益分配の権利を含んでいたが、最近は木が売れなくなってきたことから30万円に減額。その後、移住者から、「時代に即していない」と指摘されたこともあって、昨年、3万円になった。

丹波市のG自治会では現在、村入り費に当たる「入区料」10万円をできるだけ早期に「0円」に下げる計画にしている。自治会長によると、自治会行事などは住民から集める月々の自治会費で賄えるため、必ずしも入区料が必要ではないという。

「過去、高額な入区料は支払わないが、村付き合いはしたいという住民もおり、正直、黙認している状態。自治会としても、気持ちよく村入りしてもらって、行事に協力してもらうほうがいい」

 

移住相談の機関など、事前に説明

移住相談窓口で、相談員と話し合う移住希望者=兵庫県丹波市春日町黒井で

以前は入村料のほかに草刈りなどの日役に参加できなかった時に数千円を支払う「不参金」「出不足金」などを、移住後に知った人と自治会の間でトラブルになった地域もあったよう。

 

そのため、物件を仲介する不動産業者や、移住相談に対応する機関は、円滑な移住を進めるために、近年、まず、移住希望者に対して、自治会独自の制度を説明する。

丹波篠山市の「丹波篠山暮らし案内所」によると、説明を受けた上で村入りした人々と自治会との間でトラブルは起きていない。また、入村料があることを理由に移住をあきらめた人もほぼいないという。

「入村料を求める自治会にとっては、建物や神社など、集落をこれからも維持していくためのお金。また、村の一員として認めるという意味も含まれている」

一方で、「自治会が『ここに住むなら払うもの』と、上から目線になってしまったり、逆に移住者が自治会の思いを理解しようとしないなど、どちらかが我を張るとトラブルになる。お互いの歩み寄りが大切」と訴える。

また、「『都会の人間関係に疲れたから、田舎で誰ともかかわらずに暮らしたい』という人が時々いる。けれど田舎で、人とかかわらずに生活することはあり得ない。人とかかわらないなら都会の方が良いと諭します」。

丹波市住まいづくり課によると、同市では過去、村入りを希望した人が、村入り費を一括で支払うことができず、村入りを断念したケースもあったという。分割での支払いにも応じてもらえなかったそう。

丹波市から移住定住促進事業を請け負う一般社団法人「Be」も、これまで村入り費についてトラブルになったことはないものの、移住希望者と自治会をマッチングする際には、自治会長との面談の場で村入り費や自治会費などが記載された自治会規約の提示を求めるという。

「あとあとのトラブルを防ぐため。実際、移住希望者から村入り費などについて不安の声は多い。移住希望者には『自治会の中では住民同士が助け合って生活しているので、村入り費や自治会費は払ってほしい』と説明している」という。一方で「もし、自治会長の説明に納得できなければ、別の自治会を探そうと提案するようにしている」と話す。

 

移住者「金額より雰囲気が怖い」

当の移住者側はどう感じているのか。

ある移住者の男性は、「移住は家の購入で多額を扱うタイミング。なので、数万円程度ならば『別にいいか』と思う」と言いつつ、「金額ではなく、『入村』という雰囲気自体が『怖い』と思ったのは事実。引っ越してみれば隣近所の人も良い人ばかりで、とても気に入っているけれど、ある程度は移住の壁になるかもしれない」と話す。

昨年、村入りした男性は、村入り費として自治会に10万円を支払った。「『災害時など、緊急時に必要なお金としてためておく』と説明を受けたので、理解してお支払いした」と語る。村入り費がない他の自治会も移住候補にしていたが、現在の自治会に気に入った物件があったため、村入り費については目をつむったという。「郷に入れば郷に従えという思いだが、移住希望者にとっては村入り費の存在はデメリットな部分もある。時代遅れな感は否めない」と話した。

一方、別の移住者は、「古民家や自然、また村付き合いも含めて魅力を感じたので、入村料を払って移住した。その土地の制度に馴染むことも移住に含まれていると思う」と話した。

 

専門家「暗黙」ではなく、紙に書いて

農村経営学が専門の神戸大学の中塚雅也准教授も、「地方への移住者にとってハードルになる可能性はある」と指摘。中塚准教授がかつて、自治会が保有する山林などを売却した際の利益を受ける権利を含めて入村料を求める自治会にかかわった際には、財産管理組合をつくるなどして分け、新住民の負担はゼロにするように提案したこともあるという。公民館などの施設建設費として求めることもあるが、年月がたち、減価償却してしまって価値がない場合もあるようだ。

ただ、「地元としては、『誰でもいいから来てほしい』というものではなく、『自分たちのルールを尊重してくれる人に来てほしい』という思いがある。移住者は、それが嫌だと感じれば、別のところへ行けばいいと思う」とも。また、「一番の問題は、『暗黙』で、移住した後に伝えるというケース。しっかりと紙に書き、移住者も次の世代の役員も見えるようにしておくことだろう」と話した。

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