実は手厚い日本の育休 海外からは、「なぜ男性使わないの?」 北欧では父限定の期間も

2019.08.24
ニュース丹波市丹波篠山市地域

「ヨーロッパでは、父親しか取れない育児休業期間を設けている国もある」と日本との違いを話す中里教授=兵庫県丹波市柏原町で

男性の育休取得の「義務化」をめざす国会議員連盟が6月に発足し、今月22日には厚労省が、男性の育休促進に積極的な企業への助成制度を拡充する方針を決めるなど、近年、男性の育休に関心が高まっています。育休取得は女性で82.2%に上るのに対し、男性はわずか6.16%というのが現状(2018年度)。家族社会学が専門で、男性の育休について研究している甲南大学文学部社会学科・中里英樹教授(51)によると、育休は「社会を変える“入口”」で、さらに日本の育休制度はかなり手厚いそう。育休制度の現状について語っていただきました。

以下、中里教授の話

男性の育児休業をテーマに研究し始めたのは、2012年から。海外の研究者から誘われたのがきっかけだった。それまで、日本では男性の育休取得は難しいし、育休は一時的なことなので、家庭運営をよりよくするには、男性の長時間労働を変えることの方が重要だと考えていた。しかし、世界的にみると、子育てを巡る仕事と家族の状況のなかで、お父さんの育休が重要な位置を占めていることが分かり、日本でも社会を変える“入口”として、男性の育休に注目することに意味があると考えるようになった。

 

父親限定の期間ある国も

日本の育休制度は、実はかなり手厚い。産休とは別に、育休の最初の6カ月間は休業開始時賃金の67%が、その後は50%が保障される。非課税で社会保険料も免除される。男女どちらでも同じ条件で取得でき、2017年から期間を最大2年まで延長できるようになった。

しかしながら、日本で実際に育休を取得する男性は極めて少ない。海外の研究者からは「こんなに良い制度なのになぜ使わないのか」とずいぶん聞かれた。日本は、制度は整っているが、将来の出世や同僚の目といったハードルを越えて取得する動機付けがない。日本で男性の育休を普及させるには、抵抗が強いようだが「義務化」が必要かもしれない。

他の国では、同じ期間には、夫婦のどちらかしか取れないところが多い。賛否があるが、北欧などでは、お母さんが取れる育休期間を限定し、お父さんに交代しなければ残りの期間は給付が出ない制度などになっている。制度の変更で、男性の育休取得率が大きく伸びた。

 

男性の育休「メリット多い」

男性が育休を取るメリットはいろいろある。会社にとっては、「人が長期的に抜ける」という前提で配置を考え、それでも回る仕組みをつくっておくことは、長期的に見ればメリットになる。ただし、抜けた人の分を今いる人だけでカバーするというのは限界があり、小さい会社が困らない助成制度が必要だ。

また、男性が育休を取るようになれば、優秀な女性が長く休まずにある程度早く仕事に復帰することにつながるだろう。

育休を取って子育ての全貌が分かれば、お父さんも当事者として子育てを意識するようになる。復帰した後も、限られた時間の中で効率よく働こうと考えるだろう。仕事が終わるまで働くのではなく、設定した時間で仕事を終えて帰る。そういう働き方を示すことができれば、ロールモデルにもなるだろう。

男性の育休は、大変な苦労でもあるが、楽しい経験でもある。育休を取得した男性は、「子どもの成長をゆっくり見ることができ、子どもとの距離が近くなった」と言う。本人にとってのメリットは大きい。

男性の育休はあくまで入り口であり、働き方を構造的に見直すことが必要だと思っている。ヨーロッパの人と話すと、日本人はあまりにも仕事優先だと驚かれる。一人の人を長時間働かせることでたくさんの仕事を終わらせようとしており、定時で帰れることがあまりに当たり前でなさすぎる。

定時で帰って仕事を回すためにはどこを変えたらいいのか。どんな人であっても、この時間までに仕事を終えないといけない、という前提でいろんなことを作り変えていかないといけないだろう。

関連記事