命と向き合った母の味 お手製ジェノベーゼ商品化 子の不登校乗り越え 「食で命の尊さ伝えたい」

2019.09.28
ニュース丹波篠山市地域

自家製ジェノベーゼや、近所の人たちが育てた野菜をマルシェで販売している井上さん=2019年9月20日午後3時51分 兵庫県丹波篠山市今谷で

兵庫県丹波篠山市今谷の井上富子さん(40)は今夏、自宅の畑で栽培するバジルを使った手作りのジェノベーゼ(イタリア料理などに用いられる緑色のソース)を商品化した。井上さんは、自身の3人の子どもが不登校となり、精神的に子どもの命と向き合わざるを得ない状況にまで陥った経験がある。そんな中でも自分の作った料理に「おいしい」とほほ笑んでくれた子どもたち。丹波篠山の自然の恵みを生かした「食」を通じて命の尊さを伝えたいと考えており、「ジェノベーゼがそのツールの一つになれば」と願っている。

自家製のジェノベーゼ「翠」=2019年9月20日午後2時38分 兵庫県丹波篠山市今谷で

もともと20年近く前から夫や家族、友人のために作り続けてきた家庭の味。知人の紹介で「SevenEight」の屋号で、大阪や京都のマルシェで販売したところ、ここ2カ月で100個以上を売り上げた。

大阪から2年半前に移住した。自治会長の山内武雄さん、智子さん夫婦からアドバイスを受けながらバジルを栽培したところ、「大阪で作っていた頃よりも味が格段によくなった」。マルシェではディスプレイ用にと、バジルをプランターに植え替えて置いておくと、「そのみずみずしさに『プランターごと欲しい』と言われる」と笑う。山内さんの育てた米や野菜も一緒に販売し、丹波篠山の土の恵みをPRしている。

大阪に住んでいた頃、当時、中学1年だった長女が友人関係のもつれから学校へ行きづらくなった。その後、長男、次女も不登校に。辛い胸の内をブログに書き綴るうちに人とのつながりが生まれた。同じ悩みから話を聞きたいという人が増え、講演を引き受けたこともある。

環境を変えるために辿りついた丹波篠山で自然豊かな景観を一望できる物件にも巡り合えた。長女は自立に向けて歩き始め、長男、次女も丹波篠山での学校生活に馴染んできた。

「ただいま」「友だちと遊んでくる」―。子どもたちのそんな当たり前の笑顔がうれしい。悩んでいた頃、自分の作った食事に「おいしい」とほほ笑んだ、その笑顔と重なる。そんな思いから、相談を受けながら自宅でランチを提供する「いのちのごはん」(予約制)も始めた。「丹波篠山の豊かな恵みとともに、子どもたちが与えてくれた、命と向き合う経験を多くの人と分かち合いたい」と話している。

ジェノベーゼ「翠」(78グラム入り)、1000円。「井上富子 イノチはおいしい」で検索。

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