介護に必要な「ほどよい距離感」 言動わかろうとしてみて【認知症とおつきあい】(2)

2020.01.25
ニュース丹波市丹波篠山市地域地域

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昨年、「長いお別れ」という題名の映画が封切られた。

学校長を退職して数年経過した父に認知症の症状が現れる。日付や時間の感覚がわからなくなり、さらに進行し外出して自宅に戻れなくなる症状が出現始めた頃、夜の遊園地のメリーゴーランドの前で孫のような姉妹と出会う場面から物語が始まる。なんともファンタジックな情景だ。

認知症の介護物語ではなく、徐々に進行していく認知症の症状を家族が理解していく過程を妻・娘・孫たちの人生のそれぞれの出来事と絡めながら家族物語として描いている。

それぞれの登場人物が、父を「認知症の人とはこうだ」と決めつけるより、「お父さんが、このような行動をとるのは、○○だからだろう」とか「こんな状況のお父さんの思いは、きっとこうなのだろう」と、父の身になって捉えようとする。

認知症の人として「父」を家族から分離してしまわず、「私の父」「私の夫」として同一視しない、父のアイデンティティーを尊重するやさしさがみえる。

私の20年間の経験から、認知症介護のテーマの一つは、程よい距離感をもてることである。密着し過ぎると、介護者が認知症の人を自分と同一視して、おかしな言動や困った行動を叱責する。追い詰められた認知症の人は、自分の身を守るために、誰かのせいにしたり、反発したりしてしまう。

一方、離れすぎると、認知症の人は放置されたような孤独感を覚え、家族から見放されてしまう不安感で落ち着かない。

少し距離を置いて「どうしてこんなことをするのだろう」と考えてみることで、意外と理解しがたいと思っていた認知症の人の行動や気持ちも、言われてみればなるほど…なのかもしれない。

認知症だからではなく人間は誰でも似たような心理を持っている。映画を観る時間のない方には、文庫本も出版されている。

寺本秀代(てらもと・ひでよ) 精神保健福祉士、兵庫県丹波篠山市もの忘れ相談センター嘱託職員。丹波認知症疾患医療センターに約20年間勤務。同センターでは2000人以上から相談を受けてきた。

認知症とおつきあい(1)

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