今後「目に見えない外来種」深刻に ダニ学者・五箇さん警鐘鳴らす 病原体や寄生生物「どんな病気起こるかわからない」

2020.03.31
ニュース丹波市地域

生物多様性異変や外来種、感染症などについて話す五箇さん=兵庫県丹波市氷上町本郷で

国立環境研究所の生物・生態系環境研究センター研究室長(生態リスク評価・対策)で、ダニ学者の五箇公一さんがこのほど、兵庫県丹波市で講演した。「地球環境変動と生物多様性異変~私たちの生活への影響」と題し、外来種や感染症の問題に警鐘を鳴らした。要旨は次のとおり。

生物多様性には、「遺伝子の多様性」、「種の多様性」、そして「生態系の多様性」という階層性がある。環境の変化に対応して生き延びるには、1つの種の中に、さまざまな特徴をもつ遺伝子があった方がいい。また種の多様性が高いと、捕食の関係が複雑なネットワークになり、生態系として安定する。

地球上には、酸素をつくる、水を浄化する、食べ物をつくる、といった、独自の機能を持ったさまざまな生態系がある。それらが組み合わさって、生物圏とよばれる空間が維持され、そこで人間も生かされている。生物多様性は、人間が生きていくために不可欠な基盤だ。

地球環境変動により、生物多様性は急速に劣化しており、100万種の動植物が絶滅の危機にある。いずれ温暖化が生物の大絶滅を招くと懸念されているが、今は、生息地の破壊、乱獲、外来種の問題の方が急速に、生物多様性に影響を与えている。

外来種の問題を取り上げると、日本で外来種が増えている背景に、経済のグローバル化がある。1995年にWTO(世界貿易機関)が発足し、外国産のものが輸入しやすくなったことで、さまざまな昆虫や動物などがペットとして輸入されるようになった。

さらに、これらの動物や輸入資材にくっついて、隠れて侵入してくる外来種も増加している。2017年、南米の熱帯原産のヒアリが神戸でも見つかり、大騒ぎになった。ヒアリは攻撃性、毒性が高く、刺されると痛い上に、アレルギー症状がある人はアナフィラキシーショックを起こして死に至る可能性もある。

翌年にはほとんどニュースにならなくなったが、ヒアリは上陸し続けており、2019年の秋に東京品川のふ頭でとうとう野生の巣が見つかった。

ヒアリの巣を根絶するには、殺虫成分のあるベイト剤を巣の中に運ばせて、女王アリの幼虫をやっつける必要がある。

残念ながらヒアリは目で見ても分かりにくい。国立環境研では、集めたアリにヒアリが混じっているか調べる分析キットの無償配布を続けており、全国で監視のネットワーク化を図っている。

今後深刻になるのは、感染症の病原体や寄生生物といった、「目に見えない外来種」の問題だ。

1970年代以降、人間社会に新たなる感染症が降ってわいた。コウモリやサル類の野生動物と共生し、おとなしくしていた病原体が、生物多様性の破壊によってすみかを失い、新たな宿主として人間にとりつくようになった。ウイルスたちは、人間よりはるか前から地球にいて、共進化してきた本来の伴侶としての自然宿主がいる。ウイルスたちとの戦争を避けるために、生物多様性をかく乱してはならない。

マダニという血を吸うダニがウイルスを媒介する新しい感染症が恐れられている。日本では2012年からこれまでに500人の患者が出た。平均致死率は14%で、去年の患者数は最多の111人だった。

シカ、クマ、イノシシが山から下りて来るようになり、もともと山奥にいたマダニとウイルスが人間社会に持ち込まれた。動物が下りてきているのは、人間が猟をしなくなり、動物たちが怖れなくなったからだ。

グローバル化と都市化が進む中で、外来種のように感染症がやってくる。多くの人が移動するなかで、日本全国、田舎であってもどんな病気が起こるか分からない。

世界的に感染拡大が起こっている新型コロナウイルスの起源も、おそらく野生生物だろう。生物多様性を破壊してきたことで、ウイルスたちの逆襲を受けている。

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