「市名変更」1年、効果は 報道過熱が「副産物」? ふるさと納税が一時増 その後は”落ち着き”

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住民投票の開票所に詰めかけた多くの報道陣(2018年11月18日撮影)

黒大豆やマツタケが特産で、1999年に平成の大合併第1号として誕生した兵庫県篠山市が、「丹波篠山市」に市名を変更して5月1日で丸1年となった。変更前には賛否の団体や市民らが声を上げ、さらには全国初となる市名変更を俎上にのせた住民投票が行われ、大きなうねりが巻き起こった。変更により、長年、愛称として使われた「丹波篠山」を地図上でも、作物の産地表示でも、堂々と使用できるようになった。市は、市名変更により、さまざまな経済効果があるとしていたが、1年をへて効果はあったのか。「道半ば」(市)で検証されていないものの、さまざまなデータをもとに「現時点」を検証した。

◆全国ニュースに

「市名変更に至る経緯の中で、たくさんのメディアに取り上げてもらい、観光客も増加した。その点でも大きな効果はあった」と市創造都市課の担当者は語る。

2017年2月。JA、商工会、観光協会というまちづくりの主力3団体が、酒井隆明市長に市名変更を求める要望書を提出。理由は隣接する同県氷上郡が合併して「丹波市」になったことで、「丹波」という地名に混乱が起きていることや、「市名ではないため、産地表示に『丹波篠山』が使えなくなる」といった内容だった。「丹波篠山」が「丹波市と篠山市のこと」と誤解されたり、「丹波篠山」としていた産地表示に県から「存在する地名にすべき」などと指導が入っていた。

当時はまだ、市内に記者がいる新聞各紙が一報を届けたのみだった。

この動きに賛否の住民が声を上げた。反対した人々は、「合併から20年でようやく篠山市がなじんできたのに」「変更しても誤解は解消されない」「篠山に愛着がある」などと訴えた。

その後、市が変更による経済効果額を「52億円超」と発表したことや、市として変更する方針を決定したころからテレビ局も取材するようになり、2018年11月に行われた住民投票は全国ニュースでも取り上げられるなど、報道が”過熱”した。人口わずか4万数千人のまちで「まちの名前」を巡って議論が起きている様子は多くの話題を呼んだ。

同市の条例による住民投票は市民団体が1万筆を超える署名を集めて実現。住民投票は投票率50%を超えないと開票されない仕組みのため、酒井隆明市長が辞職し、住民投票と同時に市長選を行うことまで決めた。

結果、投票率は約70%となり、賛成1万3464票、反対1万518票だった。市長選は市名変更を推進した酒井市長が再選を果たした。

そして、翌19年5月1日、令和の幕開けと同時に新市名がスタートした。

◆ふるさと納税増加

冒頭の創造都市課のコメントを裏付ける、興味深いデータがある。同市のふるさと納税だ。

議論が起こりだした17年度は2億3800万円。この中には、同年末に「市名変更に」と匿名で寄付された1億円などが含まれるため、大口寄付を除くと1億2800万円になる。

それが18年度は1億3700万円と1000万円近く上昇。特に伸び幅が大きかったのは、住民投票の動きが出始めた同年8月から実施された11月まで。全て前年度を上回り、8、9月は1・6倍となった(12月は例年、急激に増加)。

同課は、「メディアに露出し、市の名前が広まったことが要因ではないか」と推測する。

ただ、市名が変わった19年度は1億2200万円にとどまり、16年をも下回った。5―8月は前年度よりも多かったものの、9月以降、60―90%台が続いた。メディアへの露出が”落ち着いた”影響ともいえる。

ただ、同課は、「そもそもふるさと納税は変動が激しい。このデータだけではなんともいえない」とする。

◆移住相談も増える

同様の動きは市が開設する移住相談窓口「丹波篠山暮らし案内所」でも見える。

17年度312件だった相談実績は、18年度は370件で、50件以上増加。それが19年度になると336件になる。18年度の中でも相談が多かったのは市名に関する報道が増えた時期と重なる。

担当者は、「市名の報道がきっかけになり、その後も旅番組などで丹波篠山市が取り上げられるようになった。番組でおいしい食べ物や野菜がクローズアップされ、農業をしたいと思っている人に届いたよう」という。

市名変更直後、市は1200万円をかけ、「過去に例がない」PRに臨んだ。ローカルテレビ局やラジオ局へのCM、関西の主要駅にあるデジタルサイネージ(電光掲示板)や電車内の広告、ポータルサイト最大手のヤフージャパンへのネット広告、市外でも発行している新聞広告―。

ただ、ふるさと納税や移住相談だけで見れば、変更に至るまでの報道過熱という”副産物”の方が、思わぬ効果を生んだのかもしれない。

◆観光客はじわり増

観光客の動態を見ると、市商工観光課が4月7日に発表した19年度4―12月の観光入込客数は、170万4591人。前年同期比で「約23万人(16%)増えた」とした。後日、これまでの調査にあいまいな点があったとして、前年度との比較については撤回したが、同課は、「新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出されるまでは、確かに観光客は増えていた」と話す。

市営駐車場の利用台数でも、18年度の42万4280台から、19年度には44万6464台と、約2万2000台増えているという。

こちらはふるさと納税などと違い、市名変更後に増加しているが、同課も、「報道がきっかけとなって丹波篠山市のことを知った人々が、後に実際にまちを訪れてもらったのではないか」と推測する。

観光客増加による経済効果額は、現在のところ調査されていない。

◆地道にPR続ける

市が掲げた経済効果額52億円の内訳は、変更による波及効果が約28億7600万円。今後10年間で黒大豆をはじめとする特産物に付随する「丹波篠山」というブランドが失われると仮定した場合の経済的損失額が約23億3000万円。市創造都市課は、「そもそも市名変更をしたのはブランドを守るため。数値で表すのは難しいが、損失を抑えるという面では、変更した時点で効果が発生している」とする。

また、今年3月には「丹波篠山観光まちづくり戦略」を策定。18年度に12万人だった宿泊者数を2030年度には24万人に倍増させるなどの目標を掲げた。

一方、丹波新聞社が、4月26日投開票の市議選の立候補者に行ったアンケート調査では、回答があった21人中、8人が市の取り組みを「評価できない」とした。意見の中では、「スピード感が足りない」「経済効果の検証が必要」などがあった。

市民の声はどうか。農家の男性は、「コロナまでは明らかに観光客が増えた。産地も堂々と『丹波篠山』と書けるようになった。十分、効果は出ている」と胸を張る。

一方、会社員の女性は、「観光や農業に携わっていないので効果は実感できていない。市は『効果がある』と言い切っていたので、ぜひとも私のような立場の人にも効果が実感できるようにしてほしい」と話す。

賛成、反対に分かれた市民が住民投票を経て決着をつけた問題。変更した以上、賛否いずれの人々もまちの活性化に期待を寄せている。

市は、「当初から市名変更で全てが良くなるとは言っておらず、あくまで市をPRし、『丹波篠山』というブランドを守るための手段の一つ」と言い、「変更を経て、まちづくりは前に進んでいる。知名度も上がっているのは間違いない。これからも地道に時間をかけてPRに努めていく」とした。

酒井市長は、「丹波篠山への注目度は高まっている。ブランドを守っただけで半分は効果があった」とし、「5年か10年か、どこかのタイミングで検証は必要と考えている」と話した。

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