「田植えは仕事なのに」 都市部からの帰省減で悩む農家 一家だんらんも奪われ「県外ナンバーで”噂”怖い」

2020.05.03
ニュース丹波篠山市地域地域

市内で始まった田植え準備の光景=2020年5月1日午前10時24分、兵庫県丹波篠山市内で

ゴールデンウイークを迎え、兵庫県丹波篠山市内は恒例の田植えシーズンに入っている。今年は新型コロナウイルスの影響を受け、都市部で暮らす子どもたちが帰郷せず、田植えの労力が減っている農家もあり、「これを機に田を預けようかと考えている」という人もいる。一方、「帰ると言っても1日、2日。作業は自分たちだけでなんとかできる」としつつ、「手伝いより、子どもや孫たちに会えるのを楽しみにしていたのに」と残念がる声も聞こえる。現状、目に見える影響は少ないものの、さまざまな形でウイルスが影を落としている。

「子どもたちには今年は『帰ってくるな』と言った」と話すのは農家の70歳代の男性。水稲を8反栽培しており、毎年、大阪で暮らす息子を中心に、神戸の娘夫婦らが手伝いに帰ってきてくれていた。販売が半分強、残りは自家消費と子どもたちに分け与えている。

「本当は労働力がほしいけれど、『こんなとき』。自分は肺気腫を患っているので、かかったらあっという間。息子たちも『症状がなくてもウイルスを持っているかもしれない。帰らないほうがいいと思っていた』と言っていた」と話す。

別の60歳代の男性も東京で暮らす息子の帰郷を止めた。労働力を期待していたというよりも、毎年、息子夫婦や孫たちが集まり、みんなでバーベキューをすることが楽しみだった。田植え、盆、正月―。年にわずかしかない一家だんらんの時間は、ウイルスに奪われた。

「息子はいつも車で帰ってきていたけれど、県外ナンバーの車を停めていると、近所の人に心配をかけたり、噂をされたりする。それが一番怖い。今年はしょうがない。嫁さんと2人でぼちぼちやりますわ」と肩を落とす。

一方、80歳代の女性は、自分だけでは田植えができず、毎年、静岡で暮らす息子の力をあてにしていた。しかし、息子から、「今年は帰らない」と連絡があった。勤務する会社からゴールデンウイーク期間中は帰郷しないようにと通達があったという。

1人では作業ができないため田を預けることにしたが費用はかかる。「遊びに帰郷するのは避けるべきやと思うけれど、田んぼは仕事みたいなもの。なんとかならんのかと思うし、一方で感染したら怖いとも思う。複雑です」

市は4月16日付で地域の農政協力員に文書を通達。労働力が不足している場合の作業委託はJA丹波ささやまの営農経済支店が窓口になっていることを伝えた。

同JAによると、作業委託は依頼があった地区に応じて地域の認定農家や営農組合、出資会社「グリーンファームささやま」などに割り振っているが、現在のところ、新型コロナの影響で増えている印象はないという。

ある認定農家も、「帰省できないことを理由に依頼があったのは1件だけ」と言い、もしこれから依頼があっても、時期を調整して柔軟に対応できる。もしお考えならJAに連絡してほしい」と呼びかける。

普段から田植えを請け負っている農家の男性は、近所で都市部の息子らが作業をしている光景を見ることがあるという。「農家にとって田植えは重要な仕事。見かけても何も言わないようにしている。みんな大変」と話す。

一方、市は新型コロナで打撃を受けている飲食店を支援するため、テイクアウト商品を半額にするキャンペーンを展開しており、ある農家は、「高齢農家は、本当はみんな委託したい。でも、費用が掛かるので何とか自分たちでやろうとする。農作業の委託費用も半額補助にしてくれたらなぁ」と漏らし、「高齢農家が一度でも田をやめてしまったら再開は難しくなる。この先どうなることやら」と話していた。

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